研究課題/領域番号 |
19K10459
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小関 健由 東北大学, 歯学研究科, 教授 (80291128)
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研究分担者 |
丹田 奈緒子 東北大学, 大学病院, 助教 (00422121)
岩永 賢二郎 東北大学, 歯学研究科, 助教 (20448484)
小関 一絵 東北大学, 歯学研究科, 大学院非常勤講師 (40400262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 唾液 / 物性 / 口腔環境 / 再構築 / 人工唾液 |
研究実績の概要 |
唾液の物理化学的性状による機能解析と口腔環境の再構成に関する3年間の研究期間の初年度として、以下の研究成果が得られた。 1) 新たな機能性唾液タンパク質の性状決定と機能解析:継続して実施している地域歯科健康診断を令和元年度も継続して実施し、刺激唾液の収集口腔内・全身のデータを取得してデータベーズを拡充した。このデータベーズを元に網羅的全身・口腔・唾液タンパク質データベースを解析し、口腔内の歯周疾患の罹患状況・現在歯数と糖尿病の指標であるHbA1cとの多変量解析による関連を見出した。則ち、多変量解析の結果では,HbA1cに対して,有意な正の関連性が認められたのは歯石付着非歯周炎歯数,重度歯周炎歯数であり,有意な負の関連性が認められたのは喪失歯数であった.本研究より,歯周ポケット深さ6mm以上の歯の数の状態が糖尿病と関連性が強いことや,口腔内における糖尿病の増悪因子と寛解因子の両方が示唆された. 2) 唾液物性の包括的計測方法の開発:唾液の物性測定に用いる唾液粘度計の開発に関して、圧力をコントロールした毛細管粘度計の唾液上昇に関する詳細な解析を実施し、粘弾性の物性評価に関しての幾つかの課題が示された。これは非ニュートン物質である唾液の物性の複雑さを示すものであり、ニュートン物質の流動方程式に見合う項目を評価するのではなく、毛細管上昇度を一つの評価項目として疾病との関連に役立てられる可能性が示された。ビーズによる流動解析では、ブラウン運動に見合うビーズ径の問題が有り、適切な物質を検索中である。 3) 唾液機能全体の見直しによる人口唾液の設計:唾液物性の解析として、グリセリンから、キサンタンガム、グアーガム等の粘弾性材料の物性を評価しているが、口腔内微生物による分解があると判断される材料が多く、実際に使用可能な物質は限られてくると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下の4つのパートに分かれ、(1)から(3)の研究成果から(4)を検討しようとするものである。初年度の研究成果と次年度の研究への準備が進んでいるので、進行状況はおおむね順調に進展と考えている。 (1)新たな機能性唾液タンパク質の性状決定と機能解析(令和元年~3年度):全身状態や口腔内環境に関連する唾液成分や物性の検索が進展したので、これらのターゲット分子を決定する段階である。現時点での高分子と低分子の領域の唾液タンパク質は、まだ複数のタンパク質候補を含むので、そこを詳細に解析をする必要性が有り、これは次年度の研究となる。 (2) 唾液物性の包括的計測方法の開発(令和元年~2年度):唾液の性状を計測する場合は、その不均一性の把握とその機能に関わる意義を把握し、その上での粘度等の物性測定となる。初年度は、毛細管を用いた唾液粘度計に関して研究を進めたので、この分野の研究の基本的な情報を得ることができ、これを元に不均一性の研究を進める基盤が出来上がった。 (3) 唾液機能全体の見直しによる人工唾液の設計 (令和元年~3年度):人工唾液の制作には、特に(2)の情報が不可欠である。同時に、様々な粘性物質、曳糸性物質の非ニュートン物性を計測しながら、次年度に繋げていく。この研究は、主観的な口腔感覚も含む人工唾液の性能評価を最終的には実施する非常にユニークなものであり、(2)の進展状況と得られた情報を元に、次年度の研究を進めていく。 (4)唾液の再石灰化能によるエナメル質成熟の検討(令和3年度) :これは人工唾液等が完成する時に開始する研究であるので、今回はまだ進捗状況を述べる段階でない。しかしながら、再石灰化能は唾液の性状の重要な検索項目であるので、初年度から評価方法を順次確認している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目と3年目は以下の4つのパートを進めていく。これらの研究から、唾液の物理化学的総合機能解析による口腔環境の包括的再構成法の開発を完成させる。 (1)新たな機能性唾液タンパク質の性状決定と機能解析(令和元年~3年度):初年度の研究で見出した高分子と低分子の領域の唾液タンパク質について、まだ複数のタンパク質候補が含まれるので、マス等の解析で唾液タンパク質を絞り込んでいく。さらに、網羅的全身・口腔・唾液タンパク質データベースが更新されているので、これに関しても詳細に検討を進める。 (2) 唾液物性の包括的計測方法の開発(令和元年~2年度):唾液の物性の不均一性に研究の中心を移して、これまでの毛細管唾液粘度計の問題点も含めて唾液の物性の一面を明らかにする。入手性を考えると、蛍光ビーズに拘らなく適切な評価法を開発する。その上で、毛細管唾液粘度計の評価法を見直して、より簡便な物性の計測方法を見出していく。 (3) 唾液機能全体の見直しによる人工唾液の設計 (令和元年~3年度):(2)の研究成果を包含しながら、人工唾液を制作する。具体的には、異なる物性の複数の物質の混和して、目的の物性に近づくかや塩濃度・pH等の影響を確認し、最終的は口腔内に実際に滴下して口腔感覚や味も含めた人工唾液の開発となる。ここでは嚥下センサを用いて、日常生活に於ける嚥下回数の解析と人工唾液の注入速度と誤嚥の可能性も含めて評価し、塗布法の開発も含めて実際の臨床に使用可能な人工唾液の開発を目指す。 (4)唾液の再石灰化能によるエナメル質成熟の検討(令和3年度) :人工唾液の試作品が完成する時に、唾液物性と唾液の再石灰化能を検討する。これは人工唾液の機能の検証であり、再石灰化への唾液の物性の影響といった新しい概念の検証でもある。
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