本研究の目的は、特定健診の対象者となる40歳以上の壮年期以降の就労者を対象とした前向きコホートによって、①摂食嚥下に関する口腔機能が加齢と共にどのように推移するか明らかにすることと、②摂食嚥下機能などの口腔機能と、就労者の健康維持に重要な位置を占める職業性ストレスの推移、口腔内指標、全身状態、QOLなどとの関連性を確かめることの2点である。 1年目(2019年度)には、40~65歳の就労者を調査対象者とし、過去に長期の病気療養をしていた者およびうつ症状を有している者は対象から除外した。そのうえで、特定健診(定期健康診断)と同時に、①対象者基本属性、②口腔内環境、③歯科疾患の有無と程度、④口腔機能、⑤職業性ストレス、⑥運動機能、⑦健康関連QOL等を調査した。その結果、各種職業性ストレスレベルと口腔内の各種指標との間に一定の関連性があることが示唆された。また、この結果をベースラインとして、2年目(2020年度)と3年目(2021年度)に調査を行い、対象者の各調査項目の推移を確認する予定であったが、COVID-19の影響で充分な調査を行うことができなかった。 このため、補助対象期間を2年間延長し、5年目(2023年度)に上記の項目についての調査を行い、対象者の各調査項目の推移を確認した。その結果、摂食・嚥下に関する口腔機能は、①高齢期を迎える前の40歳代以降の壮年期からすでに緩やかな低下が始まり、加齢と共にその低下の程度が大きくなること、②壮年期以降の口腔機能は、特定保健指導該当者の方が非該当者よりも低下の程度が大きいことを明らかにした。これらのことから、特定保健指導該当者に対する摂食・嚥下機能の維持・改善のための介入の必要性を示唆した。
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