研究課題/領域番号 |
19K10484
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
谷口 晋一 鳥取大学, 医学部, 教授 (30304207)
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研究分担者 |
朴 大昊 鳥取大学, 医学部, プロジェクト研究員 (30759527)
井上 和興 鳥取大学, 医学部, 講師 (60739085)
角南 直美 鳥取大学, 医学部, 助教 (70715359)
中 朋美 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (60707058)
浜田 紀宏 鳥取大学, 医学部, 准教授 (30362883)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 認知症 / 高齢糖尿病 / 受容障壁 / 困難感 |
研究実績の概要 |
高齢糖尿病患者が認知症を合併した場合、本人、主介護者、医療者それぞれに、どのような受容障壁があるのかを明らかにするのが、本研究の目的である。そこで、1年目はパイロットスタデイとして、 ①研究背景として、糖尿病に関する「病いの語り」について文献的考察をおこない学会発表した。 ②BPSDなどで医療介護の両面でトラブルをおこした症例について、患者、主介護者(妻)、医療者(認知症支援員)にインタビューを実施した。 ③医療者として、高齢糖尿病患者をみる機会の多い家庭医4名、糖尿病専門医2名にインタビューを実施した。(上記②③についてテキストの質的検討(SCAT分析)をおこなった。) まず文献的考察だが、「糖尿病」と「病い」をキーワードに医学中央雑誌を検索し39件が該当した。おもに看護についての事例研究が多かった。糖尿病の受容、合併症の受容など、糖尿病の複合的な病像に関する患者主体の認知に関する研究、看護師の支援についての質的研究が多かった。 患者や医師へのインタビューの分析では、認知症を合併した際のBPSDや認知症の受容についてのトラブルは、本人や家族よりも介護支援者や医療者のほうがつよく印象に残っていると考えられた。というのは、過去のトラブルを事後的にインタビューしても、本人と家人は「いま現在の課題」にとらわれており、遡及的に分析することが難しい。いっぽう、介護支援者や医療者はトラブル経緯の詳細と全体像をよく記憶しており、それによって強いストレスや陰性感情を持っていると考えられた。ただし、家庭医と糖尿病専門医の間では、認知症合併の糖尿病へのアプローチや捉え方に差異があるように見受けられた。家庭医は患者を統一的な存在と見る故に、糖尿病治療の目標にはあまりこだわらず生活の質(健康な生活)を中軸に考える。いっぽう専門医は、認知症で糖尿病管理が不調になると強いストレスを感じるケースがあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目の進捗としては、研究テーマとなっている「高齢糖尿病患者の認知症合併時の受容障壁」の候補者を集めて、質的研究の素材となるインタビューデータを収集する計画であった。まず文献的考察では、「糖尿病」と「病い」について分析したが、高齢糖尿病かつ認知症合併に限定した研究はほとんど見当たらなかった。むしろ、認知症(糖尿病合併を問わない)のケアに関する困難感の検討は、看護研究を中心に多くの報告があった。いっぽう、パイロットスタデイでは、認知症合併時の受容障壁それ自体をタイムリーに情報収集する方法を検討しなければ、過去遡及的なインタビューは極めて難しいことが明らかとなった。その点から考えると、どのような患者(対象者)を選定するのか、どのタイミングでインタビューすべきなのか、を検討しなおす必要があると思われる。大きなトラブル事例でなく、むしろ初期段階、MCI疑いの糖尿病患者にしぼった対象選定をすべきかもしれない。また、医師へのインタビューでは、家庭医と糖尿病専門医では、求められる役割の違いがあり、その差異によって、患者を診療する際に生まれてくる「困難感」の内容が異なっていると考えられる。この点は、本研究での新たな発見として、対象例を増やしてさらに検討していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
患者とその家族については、MCI合併者など認知症による弊害が軽微なケースを中心に症例を集め分析していく。医師については、できれば別の専門診療科(ex.認知症専門医)に対象を広げインタビューをおこないたい。2年目の目標としては、患者、家族についてのケースの収集と分析、医師のインタビュー例数を増やし、上記の仮説に関する補強あるいは補正をおこなっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビューの候補者の選定が難しく、とくに第一例目の分析で上記のように認知症に伴うトラブル事例を中心に集めるという方針が妥当ではないかもしれないと気づいたため、やみくもに高齢糖尿病で認知症合併事例を収集するだけでは適切なデータ収集につながらないと考え、インタビュー分析の症例数が伸びなかったので分析費用が想定したよりも少なかった。また、とくに医師を中心にインタビューをおこなった場合、質的分析にSCATを利用したが、この方法は1例を分析するにも多くの時間を要する。SCATという方法論が妥当かどうかの検証も必要と思われる。2年目は、上記の反省を踏まえ、対象患者の選定とインタビュー、医師のインタビューの事例を増やして、質的分析のボリュームを充実させていく。そのために研究の素材となるインタビューの文字おこし、ならびに、初年度できなかったインタビューのテキスト自動解析ソフトの購入と応用をすすめていきたい。
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