研究課題
手術教育のような専門的医学教育においても,学習者が単なるトレースではなく,手術法確立の成り立ちも知った上で自ら考えながら修得する,いわばアクティブ・ラーニングが行えないか,と考えられる.本研究は,現在の手術方法の基盤となった機器の発展,原理を学べる「博物館」を構築し,そこで手術トレーニングを実施し,有効性について検討するものである.2019年度は,本学の総合的な診療手技トレーニングセンター(シミュレーションセンター)の手術機器ミュージアムの中にトレーニング機器を配置し,本研究の環境を整備した.2020年度は,手術機器の歴史的背景,原理,手技に関する映像も加えた説明も加え,自習も可能なミュージアムとした.このミュージアムで各種の手術講習会を実施する予定であったが,参加者の大多数が学外からであるため,新型コロナ感染の状況で困難となり,オンラインで可能な講習会のみ実施した.ミュージアムの内容をオンラインで参加者に伝えることができなかったので,ミュージアム展示のVR/AR化を進め,一部をオンラインで閲覧可能にした.ただ,本来なら実施するプレテストやポストテストが,受講者側のweb環境の制約のために行えなかったため,成果を評価することが困難であった.2021年度も学外からの直接参加が困難な状況が当分続くと考えられるため,当初の構想とはやや異なるが,ミュージアムの内容をできる限りオンラインで伝達できるようにし,その内容で受講者に考えさせるプログラムを考案し,実施する予定である.
3: やや遅れている
2019年度に手術機器ミュージアムの中にVR手術シミュレータを配置するというレイアウトを作成した.この「博物館」環境で腹腔鏡下手術シミュレーションセミナーや手術室に関係する多職種を対象とするエネルギーデバイスに関するセミナーを開始した.我々の手術セミナーは学外からの受講者が多数であり,2020年度は,新型コロナの状況のため,対面で行うハンズオンのセミナーを実施することが困難になった.このため,オンラインで実施可能な内容にしぼり,可能な範囲で講習会を行った.ミュージアムは,もともと実機や説明文の展示だけでなく,機器の作動原理に関する映像やVR展示も併用する計画であったが,むしろVR化を主に進めることに方法を修正し,VR/AR展示の方法を開発した.さらに学外の受講者も一部閲覧可能とした.構築しえた環境で,手術機器の原理に関して従来より踏み込んだ内容のレクチャーを試みた.VR/AR展示は想定以上に進捗したが,当初の目的である自ら考える機会を提供する講習となっているかどうかは検証できていない.
(1)博物館内容のVR/AR化促進 2020年度に,急遽,ミュージアムのAR展示を作成し,限定的ではあるが,学外からアクセスできるようにした.実際に教育的効果をあげるように,手術機器の3次元画像の作成,表示も含め,VR/AR展示をさらに進化させる.さらにこれらのできるだけ多くの部分をオンラインでアクセス可能にする.(2)オンライン手術セミナー施行 学外からの直接参加が困難な状況が当分続くと考えられるため,ハンズオンの比重が比較的低いネルギーデバイスに関するセミナーを中心に,バーチャル・ミュージアムにアクセスしながら,自ら考察できるような手術セミナーのプログラムを作成する.何らかの形で受講者の成績評価を行いたい.さらに,当初の構想であった多職種トレーニングについて何らかの形で盛り込めないかも検討する.(3)遠隔実技トレーニング 実技に関して遠隔指導を行えないのが大きな問題点である.しかし,現状において取り組む必要があると考えている.ハンズオン・トレーニングを遠隔で行うことは将来構想と考えていたが,私達は触覚に関する研究を別途行っているので,触覚伝送を含めた遠隔実習について本研究の一部として前倒しで検討し,できれば一部を実現させたい.
2020年度にVR, ARミュージアム展示に着手したが,まだ制作途中であり,機器の3D計測,画像化,VR構築などの多くがまだ残されている.この分が次年度に繰り越された.来年度は,VR, ARミュージアムを完成させて,この環境を生かした新しい手術教育プログラムを作成する.また,上記のように,視覚,聴覚以外の5感―なかでも触覚―も使用した遠隔教育についても可能性を研究する.
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https://www.med.nagoya-u.ac.jp/edu/nucsc/museum/