腎機能評価は一般的に血液検査の経時データで行うが、欠損値や過分散の問題を解決する必要がある。具体的には、生存時間解析では欠損値があるデータは打ち切り処理が行われるため、解析の結果に影響を与えてしまう。腎機能の低下についての生存時間解析では、アウトカムを初期測定された検査結果に対して一定の割合低下として定義されることが一般的だが、観測データにおける過分散の影響を強く受けるため解析結果が変化してしまう可能性がある。 そこで、状態空間モデルの概念を経時データ解析に導入することで、解析を行った。推算糸球体濾過量(eGFR)を対象として、推定する真のeGFRが1階微分方程式に従う状態モデルとして定義する。高知大学医学部附属病院において実際に測定された患者データを対象として、観測値だけ用いる場合、線形補間した場合、状態空間モデルを利用した場合それぞれにおけるカプランマイヤー曲線の比較を行った。 単純な補完である線形補間では、実測値のみの結果よりも常に下回り、逆にバイアスが掛かってしまった結果になった。一方、状態空間モデルによるeGFR推定値は、検査値を信頼区間内にとらえつつデータを平滑化した結果になった。状態空間モデルによる曲線は必ずしも実測値のみの曲線を下回らず、これは状態空間モデルによる測定値の過分散を除去し検査値を平滑化する効果によって得られたと考える。 これらの結果から、検査値の経時データによる生存時間解析では、状態空間モデルによる欠損値推定や過分散の除去を行うアプローチが有効であることを示した。
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