研究課題/領域番号 |
19K10540
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
伊藤 道哉 東北医科薬科大学, 医学部, 准教授 (70221083)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / ALS / アドバンスライフプランニング / 国際生活機能分類 / ICF / TLS |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経筋疾患の多様な病態と変化に対応する、ALP(Advance Life Planningアドバンス ライフ プラニング)に基づく意思決定支援について検討する。ALSは、スペクトラムである。ALSとFTD(前頭側頭型認知症)は同一スペクトラムであり、「頭だけはしっかりしている」という“常識”は過去のものとなった。一方、罹病期間が長くなると、必ず閉じ込めになるという“伝説”が、人工呼吸療法の不開始、中止や、幇助死、安楽死の問題に影を落としている。日本ALS協会から委託を受け、研究代表者伊藤道哉が実施した患者会員に対する悉皆調査で、2018年におけるコミュニケーションの状況(n=322)は、Ⅰ:39%、Ⅱ:7%、Ⅲ:14%、Ⅳ:25%、全く意思伝達ができないⅤ(TLS:Totally Locked-in State)は、15%であった。2017年(n=452)では、Ⅴ:14%であった。全くコミュニケーションのとれない状態は、15%ほどであると考えられる。皆が皆、必ず閉じ込めになるわけではない。ALPとは、ご本人、ご家族、医療・ケア関係者が一体となって、価値観や人生観を尊重しながら、受けたい医療やケア、住まい方、人生設計について話し合い、ご本人の生き方を共有するプロセスであり、意思表示が難しい状況にあらかじめ対処するために、前もって生き方を話し合って、医療・ケアについて、ご本人の希望を明示することである。認知・行動障害を伴うALS等神経変性疾患では、専門職の支援者を第一とするALPの有効性が高い可能性がある。初年度、国際生活機能分類(ICF)の最重要課題である「参加」の検証のため、ALS等神経難病患者・介護者の社会参加を促進するチェロコンサートを京都市上京区で企画・開催した。当事者、研究者、ボランティア等多数の参加を得て、研究のキックオフとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.ALP促進ツールの開発。ALS患者のALPを促進するために、本人の大切なもの、価値の高いものを共有するためのツールについて、研究協力者と打合せを重ねた。「ALSのバリューシェアリング フォーム(VSF)たたき台(漫画シナリオ)」「ALSのバリューシェアフォーム・説明文書版たたき台」さらに、「ALSの後ろ盾プロジェクト(仮称)説明文書案」を研究者間で作成し、ALS当事者の忌憚のないクリティカルな意見を踏まえて、ブラッシュアップを重ねた。 2.全く意思の疎通ができない状態が続いたら人工呼吸療法を中止してほしいという事前指示書を作成しているALS患者への最善の医療・ケアを検討するため、国際生活機能分類(ICF)を用いた現状分析とケアプランの提言を、臨床経験のある大学院生と検討した。 3.当該研究の対象疾患ALSの当事者団体である日本ALS協会会長の依頼を受け、すでに匿名化された調査データの単純集計を実施した。会員の半数を無作為に抽出、1870先に対し、無記名、郵送法により実施。調査期間は、2019年11月~2020年1月。調返送数526(回収率28.1%)、有効回答数524(有効回答率28.0%)。委託を受けて伊藤道哉が実施した匿名データの単純集計の結果は、未だ未公表のため割愛する。調査票の記述覧に記載された文字総数は、約72000文字、特に「療養上の悩み」は約27000文字と記載量が多く、ついで、「協会への期待」が約17000文字、「協会のためにできること」が約13000文字であった。療養上の悩みで重要なことは、「情報の欠如・不足」診断がついたとき「診断がついたらとりあえず何をしなくてはいけないか」がわからない、「何をどうそろえたらよいかという情報がない。」等である。次年度、研究倫理審査委員会の承認のもとで回答者の属性別に質的な解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の仮説として立てた3点について、さらに研究を進める。①ALSでは、コミュニケーション障害が早く起こる場合があるため、ALPの必要性が高い。ALSには急速進行例があり、話し合いを重ねるために、ALPを活用することが有効であり、なかんずく、病状の急速進行に備えて、本人の意向をアドボケートする者を決めることが最重要となる可能性がある。②TLS等コミュニケーション困難にいたるALSでは、専門職の支援者を最優先とするALPの有効性が高い。③認知・行動障害を伴うALS等神経変性疾患では、専門職の支援者を第一とするALPの有効性が高い可能性がある。ALS患者本人に代わってALPを提示・更新する役割は、家族以外の専門職の支援者が担うほうが、ALS患者本人・家族のニーズに沿う可能性が高い。 具体的推進方策:1.研究協力者と打合せを重ね、「ALSのバリューシェアリング フォーム(VSF)たたき台(漫画シナリオ)」「ALSのバリューシェアフォーム・説明文書版たたき台」さらに、「ALSの後ろ盾プロジェクト(仮称)説明文書案」について、ALS当事者の人数をさらに増やして、忌憚のないクリティカルな意見を踏まえ完成させる。また、ALS患者・介護者精神的支援について、マインドフルネス法を用いたProtocolを策定し、研究者、当事者間で実用性についての検討を行う。 2.全く意思の疎通ができない状態が続いたら人工呼吸療法を中止してほしいという事前指示書を作成しているALS患者、さらに、幇助自殺を希望してやまないALS以外の神経変性疾患患者の事例についても、国際生活機能分類(ICF)を用いた現状分析とケアプランの提言を検討する。3.当該研究の対象疾患ALSの当事者団体である日本ALS協会の匿名化された調査データのクロス集計、および、回答者の属性別に膨大な自由記述データの質的な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:1.新型コロナウイルス感染症の流行下、特にALS当事者・介護者への感染防止のため、研究協力者等との研究打合せの頻度が低下し、当初計上の旅費が十分に使用できなかった。2.情報収集整理、および、集計に用いるノート型ワークステーションの予算を計上していたが、購入を来年度に延期した。3.当該研究の対象疾患ALSの患者団体、日本ALS協会会長から、ALS協会会員ニーズ調査(全会員から半数無作為抽出、郵送匿名調査)の匿名データの提供および年度内での集計・解析の依頼があり、本研究で独自に予定していた調査を延期した。 使用計画:1.新型コロナウイルス感染症の流行が終息、緊急事態宣言が解除された後、研究協力者等との研究打合せを頻回に行い、研究の遅れを挽回するために、研究打合せ旅費を十分に活用する。2.情報収集整理、および、アンケート集計に用いる高性能のノート型ワークステーションの購入を延期していたが、さらに精度の高い解析が可能なワークステーション、および、解析のためのソフトを購入する。3.日本ALS協会会員ニーズ調査の匿名データについて単純集計・解析は終了したが、膨大な自由記述部分の混合法による質的分析を、本学倫理審査委員会の承認のもとで、独自の研究として実施するため、新たに研究協力者を依頼し、新たな研究者との打合せ、患者団体関係者との打合せに、旅費等を使用する。
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