研究課題/領域番号 |
19K10544
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
櫻井 結華 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (50307427)
|
研究分担者 |
茂木 雅臣 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (40646189)
宇田川 友克 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60328292)
高橋 恵里沙 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20875546)
今川 記恵 東京慈恵会医科大学, 医学部, 診療技術員 (90886110)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ヒアリングサポート / 超高齢化社会 / 音声認識ソフトウエア / 加工音声 |
研究実績の概要 |
超高齢化社会が現実化し、加齢性難聴を患う患者の割合が急速に上昇する事が予測されている。医療現場において加齢性難聴は、医療スタッフと患者のコミュニケーションエラーのリスクを増加させる。また、加齢性難聴患者には通常よりも時間をかけて説明を行う必要があるため、医療経済上の効率も悪くなる。本研究の目的は、加齢性難聴が引き起こす患者と医療従事者とのコミュニケーションエラーを具体的に抽出して解析し、無料ソフトウェア(音声-文字自動変換)等を活用した加齢性難聴患者への低コストで汎用性のあるヒアリングサポートを行える病院内システムの構築を行うことである 研究代表者らは、これまで「音声認識ソフトウェアを用いた医学生と医師の英語能力評価と問題点の抽出の研究(本学倫理委員会承認番号29-067(8683)」を行ってきた。この研究により、音声認識ソフトウェアを使用すると、その正答率や認識のされ方を抽出でき、医療現場での英語能力向上に必要な事項を客観的に分析できることが明らかとなった。そのことを踏まえ、さらに、このようなソフトウエアを加齢性難聴患者への診療支援システムとして利用できる方策について検討した。難聴の対策は補聴器、というのが一般的な考えであるが、補聴器以外のツールを併用して聞き取りにくさを改善しようとしている研究はない。医療現場でのコミュニケーションの問題点を耳鼻咽喉科医、言語聴覚士、聴覚基礎分野研究者という音声・聴覚の専門家がそれぞれの観点を持ち寄り協力して検討した研究は価値あるものと考える。なぜ聞き取りにくい(易い)か、有効な対応策は何かについて研究を重ねていく。令和2年度は難聴が無い人を対象に疑似難聴状態での聞き取り実験を行い、聞き取りにくくなる様々な要因についての検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究について、必要な内容を実施することができた。2019年度の音声認識ソフトウエアを使用した聞き取りに関する実験結果をふまえて実験計画を策定した。2019年度の結果の概要であるが、中等度~高度難聴の症例に対し、音声のみでの説明とタブレットで音声認識ソフトが認識した説明の言葉を表示するという2通りの診療説明を試み、その満足度と理解度を数値化して検討した結果、11項目中7項目(63.6%)で音声認識ソフトを用いた診療の方が会話や説明への負担感が減り、内容を理解しやすくなったという結果が得られた。また、音声認識ソフトを使用した場合に、診療内容が悪化したという回答は0であり、何等かのメリットを全員が認識した結果となった。医師や医療スタッフとの会話が楽になったという回答が多かった半面、難解な言葉の理解や会話することへの消極的感情については、やや改善したという結果にとどまっており、さらなる工夫が必要と思われた。また、このように難聴を支援する試みを良いと思うという回答は100%であった。難聴をもつ患者さんにとって、診療の場にこういう試みがなされること自体が負担感を軽減することにつながっている事が明らかとなった。そのため、2020年度は、どういう状況が聞き取りにくさを生じさせるのか、という点についてさらなる実験を行った。すなわち疑似難聴状態の加工音声を作成し、健聴者10名に対して、聞き取りの正答率を検討した。加工音声については難聴症例での訴えが多い項目を選び、耳鳴音、周囲の話し声、音量過小、反響、早口音声、の5種類の負荷がかかった加工音声を作成した。実験の結果、最も正答率が低下する負荷は周囲の話し声であるという結果を得られた。今後は、2019年度、2020年度の研究結果をふまえて必要な追加実験を計画し、さらなる検討を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度に行った研究により、音声認識ソフトを使用することで難聴をもつ患者さんの診療支援につながるということが明らかとなり、2020年の疑似難聴環境における聞きとり実験にて、聞き取りにくさを助長させる因子として、周囲の話し声が最も影響があることが明らかとなった。また、耳鳴音、音声の反響、早口、音量小についても、統計学的な有意差は出ないものの正答率の低下は示唆される結果となった。今後は、必要な追加実験について計画し、明らかとなった聞き取りにくさを生じさせている因子について、実際の診療現場でのコミュニケーションエラーを改善させる方策について検討し、データ解析を行って研究全体をまとめていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴って、情報収集のために参加予定であった学会が中止になったり、録画されたものをweb配信するのみとなったことで、旅費等について予定よりも少額に収まった。また、実験に必要なスピーカーとマイクを購入予定であったら、2020年度の実験については購入したPC内臓のものを使用することで実験が可能であることがわかり、その分の経費が未使用となった。そのために残金が発生した。残金については、次年度での追加実験や成果報告発表などに有効に使用する予定である。
|