研究課題
薬剤耐性菌の院内伝播いわゆる「院内感染」は、本邦のみならず全世界的な問題である。厚生労働省により薬剤耐性(AMR)アクションプランが発表され、その中で抗菌薬使用量及び耐性菌率の数値目標が掲げられている。本研究は今年度、ビッグデータを利用した本学におけるAMRアクションプラン達成のためのPDCA(Plan-Do-Act-Check)活動を中心に解析を行った。感染制御部・クオリティマネジメントセンター・診療科が連携し活動を行うことで、本学では薬剤耐性率の目標5項目の内4項目(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ペリシリン耐性肺炎球菌、カルバペネム耐性緑膿菌、カルバペネム耐性大腸菌分離率)を達成した。また抗菌薬に関しても周術期投与を中心に改善することにより、経口第三世代セフェム使用量の90%削減を達成した。また抗菌薬適正使用支援の推進により、広域抗菌薬投与前の培養実施率の向上や血液培養複数セット採取率の向上及びコンタミネーション率の低減など、医療の質向上にもつながっている。また、医療経済的解析では抗菌薬使用適正化に伴い、年間3000万円程度の抗菌薬購入量削減につなげることができた。また、今後東京オリンピックなどに伴い、海外から耐性菌が持ち込まれるリスクも非常に高い。本学では入院時耐性菌スクリーニングを開始し、年間約150例に実施し約40%の症例でニューデリーメタロβラクタマーゼ産生大腸菌を含む高度耐性菌を検出し、入院時から積極的な感染対策を実施することで院内伝播を防止することが可能となった。薬剤耐性菌への積極的な対策は多角的に推進することの重要性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究1年目は本学におけるビッグデータを利用し、薬剤耐性菌対策及び抗菌薬適正使用のPDCA活動の解析を行った。また医療経済的解析も同時に進めることが可能となり当初の予定通り進行している。
今後は現在国内でアウトブレイクの報告が多数ある微生物(クロストリディオイデス・ディフィシル、CRE、MDRPなど)の院内伝播に関するリスク因子解析や費用対効果に優れた感染対策の立案を行う。また医療の質指標として病院間比較に用いられることの多い医療関連感染(カテーテル関連血流感染症・手術部位感染症など)の全国サーベイランスや急性期病院のデータを用いたビッグデータの解析により、最適な感染対策指針の策定及び検証を行う。
当該年度後半にコロナウイルス感染症の拡大があり、本務の感染制御活動に専念せざるを得ず、研究が一時的に中断したため。
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