研究課題/領域番号 |
19K10570
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研究機関 | 吉備国際大学 |
研究代表者 |
平上 二九三 吉備国際大学, 保健福祉研究所, 準研究員 (60278976)
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研究分担者 |
齋藤 圭介 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (20325913)
井上 茂樹 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (40531447)
原田 和宏 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (80449892)
井上 優 吉備国際大学, 保健福祉研究所, 準研究員 (90726697)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リハビリテーション医療 / 職場内教育 / 理論的なモデル / 知識・技能・態度 / シミュレーション教育 / 学際的なチーム / 物語に基づく医療 / 共同意志決定 |
研究実績の概要 |
世界一超高齢社会の日本のリハビリテーション(リハ)医療をホリスティック(全体観的医学)な視点から見直すと、人材育成のための新たな教育モデルの開発が急務となってくる。研究代表者は、臨床現場でリハを行う実際の考え方・やり方であるリハ技能が教育上の盲点になっていると考えている。卒前教育では知識や技術が重視され、技能は評価されることもなく、卒後教育でも技術やスキルと混同され、リハ技能として指導されることもない。 本研究の目的は、リハ技能の評価ツールを開発することであり、人材育成の教育目標を明確に示し、共通理解が得られる教育モデルの開発が端緒になる。教育モデルとは、実践的なリハ医療の考え方・やり方を示した概念的な枠組みのことである。今まで評価されることがなかったリハ技能を、知識と態度の関連から表すことで学習方法を視覚化できる。 具体的には経験症例を振り返り、深く考えることで知識と技能を伝える。知識は、患者の病前生活や診療経過を把握し、リハニーズを捉えるまでの手続き的な知識である。情報収集や現場での傾聴や観察を通した気づきが、「価値のある情報:知識」になる。一方、技能は、患者家族と医療者側のニーズをすり合わせ、目標設定を示すことがリハ技能である。今ここで何をすべきかの介入ポイントを見出す技能が、「行動につながる知識:知恵」になる。態度は、価値のある情報(知識)が行動につながる知識(知恵)になることで、リハマインド(知心)が育まれる。知心は、疾患や症状など臨床像への対処だけでなく、個別的な障害像への対応、心理面と環境面に配慮した生活の再建がリハ職としての職業意識である。 COVID-19のために職場内教育モデルが緊急に必要とされていることから、臨床像・障害像・心理面・環境面の特徴を捉え、その四側面の相互関係から介入ポイントの知恵を見出し、知識・知恵・知心がつながる学習方法論を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リハの実践に必要な知識・技能・態度を育む理論的な教育デルを開発する。学習方略は、新人若手療法士に対してリハを行うための知識と技能を伝える。知識は、患者のおかれた状況を全体像として捉えて、課題を認識するための手続き的な知識である。一方、技能は、患者家族と多職種に実現可能性のある目標とその道筋を示すリハ技能である。学習成果は、介入につながる知識とリハ技能を学ぶことでリハマインド(態度)が育まれる。つまり、知識・技能・態度といった学習要素がつながる教育モデルを活用することでシミュレーション教材を開発することが可能になる。この実践報告が、医療教育学会誌に受理された。 本研究は、リハ技能を育成するために養成教育機関と海外も含めた臨床現場から、汎用性の高い教育モデルを開発する計画であった。しかしながら、今般のコロナ禍の影響で、卒前教育では遠隔授業や臨床実習の中断、卒後教育では病院での面会禁止や研究協力者への接触制限などで、観察や対面の調査は不可能となった。 そこで、過去の研究課題を引き続き論文化することに努め、文献調査研究にシフトし、西洋と東洋のホーリズム(全体観)から教育モデルを構築することにした。本研究は、リハ医療の実践方法としてホーリズムを提示する。リハは医療の中でも最も多くの専門職が一人の患者に関わっていくが、職場内教育でチーム医療を実践するためのスキルトレーニングを受けることはない。本研究の教育モデルは、共同意思決定(SDM)とナラティブベース医学(NBM)の実践にも関連している。そのうえで、関連した学習モデルを徹底的に調査する。シンプソンのスキル分類、ミラーの臨床評価ピラミッド、委託可能な専門的活動(EPA)、手技の直接観察評価(DOPS)など、リハ技能に関連した学習モデルを見出すことができた。これらが、職場内教育に有用性があると考え、以下のとおり論文執筆中に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の推進方策では、現地調査が困難な状況で、研究目的が完結しないことが危惧される。そこで、現在執筆中の英語論文「職場内リハビリテーション教育における理論的スキルの開発」をⅠとⅡに分けて投稿し、年度内に受理されるよう進めたい。 Ⅰでは、ホーリズム(全体観)の観点から、知識・知恵・知心の3つを合わせて「知」とする高梨の知のピラミッドを日本独自の知恵の文化とする。つまり、知識・技能・態度の3つの連鎖をリハ医療の考え方・やり方とする教育モデルを提案する。この教育モデルを職場内教育で活用することで、学際的チーム・SMD(共同意思決定)・NBM(物語の医療)を統合したホリスティック医療を実践できるようになると考えている。 一方、Ⅱでは、ブルームの教育目標の分類やシンプソンの精神運動領域の分類をはじめ、リハ医療に関連した学習モデルを徹底的に調査し類型化する。ミラーの臨床評価の学習ピラミッドからは、手技の直接観察評価(DOPS)を3段階の手順で行うリハ技能評価は新規性がある。学習ピラミッドの頂点で「プロのように考え、行動し、感じるようになる」というレベルを具体的な症例シナリオ教材にすれば革新的になる。また、患者を任せる能力として委託可能な業務(EPA)の視点を導入すればシミュレーション教育がより有益になる。 本研究は、リハ技能の評価ツールの開発を目的とし、ホーリズムから日本独自の教育モデルを提案する。教育モデルをベースにした学習内容は個人の能力、組織のチーム力、病院全体のリハマインドのレベルに分類する。本研究の成果は、これからのリハ医療を担う人材育成の指針になり、その有用性を臨床現場に還元し確認する計画であった。コロナ禍で現地調査が困難な状況の中、有用性の検証は先に文献に委ねることになる。例えば、宮田の「プロフェッショナリズム教育の10の視点」などの報告が医療教育の評価ツールになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が、161,591円と生じた理由は、予定していた国内の学会発表がコロナ禍で延期、および辞退したことによるものである。 そこで、今年度は、国際学会を国内発表にとどめるなど、研究発表の計画を見直す必要がある。また、学会の中止や延期に伴う旅費が削減される。さらに、フィードワークや対面調査が難しい状況が続く中、研究協力者や研究補助者、および調査協力者への人件費・謝金が不要になる可能性がある。それらの費用は、すべて文献調査や英語論文執筆、および論文投稿料・印刷費に関わる必要経費に使用する計画である。職場内教育モデルは、国内外でも皆無であり、特にCOVID-19により臨床実習の機会を奪われた新人療法士の参入が続いているため、一早く公表・公開できるよう経費を充てたい。
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