研究課題/領域番号 |
19K10582
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
松岡 雅人 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (50209516)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス / シグナル伝達 / 重金属 / カドミウム / サルブリナル |
研究実績の概要 |
本研究は、重金属ばく露における小胞体ストレス軽減物質サルブリナルによる細胞死抑制効果について、主要な小胞体ストレスシグナリングPERK(double-stranded RNA-activated protein kinase-like ER kinase)経路に着目し、翻訳開始因子eIF2α、転写因子ATF4およびオートファジーを含む細胞死を解析することにより、その分子基盤を明らかにすることを目的とする。2019年度は、代表的な毒性金属であるカドミウムをばく露したA549肺胞上皮腺がん細胞におけるサルブリナルの影響について以下の知見を得た。 (1)A549細胞に小胞体ストレス誘導剤であるタプシガルジンとツニカマイシンを処理したところ、eIF2αリン酸化、ATF4、GRP78レベルの増加が認められ、本in vitro実験系は小胞体ストレス応答モデルとして有用であることを確認した。(2)A549細胞にカドミウムをばく露した結果、eIF2αリン酸化、ATF4、GRP78レベルは増加し、また、TFEBの減少とp62とLC3Bの増加を認めた。以上の結果から、カドミウムはA549細胞において小胞体ストレス応答とオートファジーを共に誘導することが明らかとなった。一方、サルブリナル処理はカドミウムによる小胞体ストレス応答とオートファジーの各マーカーの発現に明らかな影響を及ぼさなかった。(3)カドミウム濃度依存的にばく露24時間後のMTTアッセイによるA549細胞生存率の低下が認められた。サルブリナル単独では、20 μMまでは明らかな細胞毒性はなかった。カドミウムとサルブリナルの併用により軽度な相加的な細胞毒性の増強が認められた。 以上の結果から、肺胞上皮腺がん細胞ではカドミウム細胞毒性に対するサルブリナルの抑制効果は明らかではなく、むしろ、がん細胞生存率を低下することが判った。これまでに認められた近位尿細管上皮細胞におけるサルブリナルの効果とは異なる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、これまでに報告の無かったカドミウムをばく露した肺胞上皮腺がん細胞におけるサルブリナルの影響を検討した。次年度以降は本知見を元に、肺がん細胞以外の近位尿細管上皮細胞および神経細胞へ実験をシフトすることが出来る。また、モデル生物である線虫を用いたカドミウムばく露の生体影響に関する実験に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、カドミウムをばく露した近位尿細管由来上皮細胞(HK-2、LLC-PK1)、鉛およびトリブチルスズをばく露した神経細胞(SH-SY5Y、PC12)における小胞体ストレス応答(PERK、ATF6、IRE1経路)、MAPキナーゼ(ERK、JNK、p38経路)、転写因子NF-κB、オートファジーを含む細胞死制御機構と、これらの変動に対するサルブリナルの効果についての解析を行う。また、小胞体ストレスを生じることが予想される他の金属・半金属(銅、ヒ素、クロム、バナジウム)や化学物質(パラコート、ロテノン、ベンゾピレン、シスプラチン)を標的細胞にばく露し、サルブリナルによる中毒性細胞障害の抑制効果を検討する。次いで、他のケミカルシャペロンや小胞体ストレス応答軽減物質の重金属ばく露による中毒性細胞死に対する抑制効果を検討する。培養細胞実験系にて毒性金属ばく露によるサルブリナルの効果を検討した上で、最終的にはその生理機能をモデル動物(ゼブラフィッシュおよび線虫)を用いたin vivo実験系にて確認する計画である。
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