研究課題/領域番号 |
19K10595
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森松 組子 (吉松組子) 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (90220722)
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研究分担者 |
清水 健太 北海道大学, 医学研究院, 助教 (20466840)
津田 祥美 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70447051)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 慢性腎臓病 / ハンタウイルス / タイランドウイルス / 人獣共通感染症 / アンゾロベウイルス / ランカウイルス |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)は2002年に米国腎臓財団によって提唱された概念である。先進国では成人人口の13%を占めるとされ、そのほとんどが糖尿病や高血圧等の生活習慣病を原疾患とする。一方で、このような原疾患を持たない原因不明のCKDがスリランカ、インドの一部、中南米から報告されており、CKDuと呼ばれている。特にスリランカでは重症型のCKDuが健康な労働年齢の男性に頻発し、国家的な問題となっている。近年申請者らは、CKDu患者の約半数が抗ハンタウイルス抗体陽性であることを見いだし、ハンタウイルス感染症が慢性腎臓病の発症に関与していることを疫学的解析により示した。さらに、CKDuの流行地のげっ歯類からハンタウイルスを検出し、このウイルスが感染源となっている可能性をみいだした。本研究では、スリランカ固有の新規ハンタウイルスを解析し、この情報を基礎に血清診断法、分子生物学的診断法を開発する。さらにこれらの診断法を用いて、ヒトおよびげっ歯類におけるハンタウイルスの感染状況およびCKDu発症機序の解明を試みることを最終的な目的とする。 今年度は特に、スリランカ固有のハンタウイルスの特定と遺伝子解析を目標としていた。結果的に、存在がすでに確認されていたランカウイルスに加えてもう一つのタイランド型ハンタウイルスであるアンゾロベウイルスを見いだし、それぞれの宿主がインドハツカネズミおよびクマネズミであることを明らかにした。さらにそれぞれのウイルスの遺伝子配列を決定し、ランカウイルスは最も進化的に離れたタイランド型ハンタウイルスであること、クマネズミ由来のウイルスはマダガスカルに棲息するクマネズミ由来のアンゾロベウイルスに極めて近縁であることが明らかとなった。また、遺伝子配列を基に血清診断法および遺伝子診断法の開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はスリランカには二つのタイランドウイルス関連ウイルスが存在すること、およびそれらの自然宿主を明らかにした。すなわちインドハツカネズミ由来のランカウイルスとクマネズミ由来のアンゾロベウイルスである。どちらもCKDu流行地の北部中央州から検出された。ランカウイルスは米作地帯から検出され、アンゾロベウイルスは居住地区より検出された。この結果から、新たな課題として、どちらのウイルスがCKDuに関連しているのかを明らかにする必要が生じた。 現在までにこの2種のウイルスの遺伝子配列の決定および解析を完了した。さらに主要抗原である核蛋白(N)および外被糖タンパク(GP)のクローニングを実施した。S遺伝子から調整した組み換えNタンパクはこれらのウイルスが検出された齧歯類血清と良好に反応し、良好な抗原を得られた。一方でその抗原性はほぼ同一であり、これらの抗原により罹患ウイルスを区別することは困難であった。M遺伝子からは組換えエンベロープタンパク発現・pseudotype VSVを作製し、代替中和試験を構築した。この中和試験の交差反応性を評価する必要がある。さらに、特定した遺伝子情報を基にS遺伝子をターゲットとしたリアルタイムPCRによる遺伝子検出系を構築した。これらは互いに交差せず、罹患ウイルスを鑑別することができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は今年度に樹立した、組み換えNタンパクを用いた血清診断法、組み換えGPを用いた中和試験、リアルタイムPCRにようる遺伝子診断法を、評価することを目的とする。すでにスリランカの研究協力者に依頼して、検体となる齧歯類の捕獲を開始している。また、急性熱性疾患患者血清の検査による、ヒトへの感染を検出する体制の確立に向け、種々の準備を開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注品の一部がコロナウイルス感染拡大のため納品日が変動し、納期が3月末で不確定となったため。しかしながら2月までには計画的に予算執行を進めてきたため、執行率は95.82%とおおむね使用し研究を遂行することができた。
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