2020年4月に施行された改正健康増進法では、飲食が可能な加熱式タバコ専用室が経過措置として容認された。しかし、申請者の予備実験では加熱式タバコからも受動喫煙が発生することが明らかであり、飲食が可能な加熱式タバコ専用室のある飲食店で働く従業員は、接客時に受動喫煙が発生することが懸念される。また、大企業では、複数ある喫煙室の一つを加熱式タバコ専用喫煙室に転換した事例が散見される。これらの動きは、加熱式タバコを容認し、紙巻きタバコから加熱式タバコへのシフトを促し、結果として喫煙者の禁煙企図を阻害することに繋がる。そのような動きを抑えるために、本研究は以下の3点を目的とする。 1)加熱式タバコからも受動喫煙(粒子とガス)が発生することを客観的なデータで示すこと、2)紙巻きタバコが禁止されている場所では加熱式タバコも使用禁止、という社会規範を醸成すること、3)加熱式タバコを含むすべてのタバコ製品の使用を中止し、禁煙する人を増やすこと、である。 令和元年度、某企業に設置された加熱式タバコ専用室の調査から、大量の粒子状物質とガス状物質が放出されること、ただし、粒子状物質は液体のミストであり、室温で気体(ガス)に変化するため加熱式タバコの受動喫煙を評価するためにはガス状物質の測定が必須であることが判明した。令和2~3年度は、新型コロナウイルスの第1~6波により実際の飲食店や企業の喫煙室の調査が出来ない状況が続いた。そのため、産業医科大学の模擬喫煙室内で加熱式タバコを使用した時の液体の微粒子を平面レーザー光線で可視化、および、注射器で吸引・放出し、模擬喫煙室の外でガス状物質が検出されることを実証し、加熱式タバコでも受動喫煙が発生することについて啓発資料の作成をおこなった。
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