肥満が心血管病や高血圧、高脂血症、糖尿病と密接な関連があることが広く認識される一方で、肥満パラドックスと呼ばれる概念が提唱され、やせが肥満よりも予後良好とは限らない可能性が指摘されている。今回の研究テーマでは健康な若年集団を対象として、やせに見られる食事や運動習慣の特徴や、健康状態への影響について引き続き検討を行った。 これまでの各種解析結果から、持続的なやせ症例のほうが、やせの改善症例よりも健康に及ぼす影響が大きいことが示唆された。今回は、やせの程度によって生活習慣やその後の健康状態に傾向が見られるかどうかを検討したところ、食習慣には明らかな違いを認めなかった。やせ症例の中でも著明なBMI低値を認める群では、週複数回以上の運動習慣が見られる割合が低い傾向であったものの、統計学的有意差は見られなかった。ベースラインのやせの程度によって、その後の血圧上昇にも明らかな関連を認めなかった。 続いて、やせが改善したかどうかの検討期間を延長し、健診初年度に続いて次年度もやせを認めたものの、その次の年度にやせが改善した症例まで拡大して解析した。昨年度の検討結果と同様に、持続的なやせ群では、やせ改善群と比較して加糖飲料の摂取頻度が有意に高かった。ベースラインのBMI値と高血圧の関連について検討したところ、持続的なやせを認める群では多変量解析において、初年度の低BMI値が収縮期血圧上昇に対する独立した危険因子で、この傾向はやせの持続期間が長いほうがより顕著であった。その一方、次年度あるいはその次の年度にやせが改善した群では、初年度のBMI値と収縮期血圧上昇の間に統計学的な関連を認めなかった。 これらの結果から、わが国の健康な若年層では、持続的なBMI低値が将来的な高血圧発症の危険因子となりうる可能性が示され、慢性的なBMI低値の背景には偏った生活習慣が関与していることが明らかとなった。
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