研究課題
INTERSALT研究やTOHP研究では、尿中のナトリウム排泄量とカリウム排泄量の比(以下、 尿中Na/K比)と脳卒中死亡や脳・心血管疾患の予後との関連が示されている。また、これらの疾患の発症や冠動脈や脳動脈の動脈硬化に先立って大動脈の動脈硬化性変化が認められることが指摘されている。大動脈の動脈硬化を非侵襲的に把握する手法として脈波伝播速度を用いる方法が普及しているが、その中でもcardio-ankle vascular index (CAVI)は変動が大きい計測時の血圧値の影響を受けにくい指標とされている。患者集団での検討で尿中Na/K比が脳・心血管疾患と関連することは報告されているが、 その先行指標である大動脈の動脈硬化の指標となるCAVIとの関連はこれまで報告されておらず、他の生活習慣指標と比べた場合、どの程度寄与の大きさに違いがあるかは明らかにされていない。また尿中Na/K比の動脈硬化への寄与は生活習慣が異なる集団において差が認められる可能性もある。本研究では、研究1)生活習慣および平均塩分摂取量の異なる関西(神戸研究)と東北(鶴岡メタボロームコホート研究)の男女でCAVIを比較し、尿中Na/K比との関連が両地域で異なるかどうかを比較・検証する。2)さらに、両地域におけるCAVIの上昇に寄与する危険因子の種類と程度等の差異を明らかにすることを目的とした。2021年度はCAVI高値と、高血圧(診察室)と尿中Na/K(mol比)の組合せにおける関連を検討した。全体における解析で、高血圧あり/高尿中Na/K群においてオッズ比高いことが示唆され、血圧値と尿中Na/K比を組み合わせが動脈硬化のスクリーニングに有用であると考えられた。
3: やや遅れている
本年度はCOVID-19感染の影響により、新たな現地調査が困難であっため既存試料を用いた測定と既存情報の解析のデータで解析を行った。【目的】CAVI高値と、高血圧(診察室)と尿中Na/Kの組合せにおける関連を検討した。【方法】神戸研究では、2010年~2011年のベースライン調査に参加し、CAVIを測定した536人のうち、上下肢血圧比 0.9未満の1人をTG400mg/dL以上の者1人を除外した534人(男性322人、女性212人)で解析を行った。各項目の定義にはメタボリックシンドロームの診断基準を採用し、高血圧、高脂血症、空腹時高血糖とした。また、スポット尿における尿中Na/K(mol比)は、男女別の中央値で2群に分けた。尿中Na/Kの2群と高血圧の有無で、高血圧なし/低尿中Na/K群、高血圧なし/高尿中Na/K群、高血圧あり/低尿中Na/K群、高血圧あり/高尿中Na/K群の4群に分け、高血圧なし/低尿中Na/K群を基準としたそれぞれの群におけるCAVI高値(9.0以上)のオッズ比(95%信頼区間)をロジスティック回帰分析にて算出した。共変量は、性別、年齢、BMI、高脂血症の有無、空腹時高血糖の有無、喫煙及び運動習慣の有無とした。【結果】平均年齢61.8±8.6歳、左右平均CAVI値は男性8.1±0.9、女性7.9±1.0で、CAVI 9.0以上は86人(16.1%)(男性61人<男性のうち18.9%>、女性25人<女性のうち11.8%>)であった。尿中Na/Kの中央値は男性1.97、女性1.75であった。全体の高血圧なし/低尿中Na/K群を基準とした、CAVI高値のオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ、高血圧なし/高尿中Na/K群で0.94 (0.5-1.9)、高血圧あり/低尿中Na/K群では1.6 (0.8-3.6)、高血圧あり/高尿中Na/K群では2.1 (1.1-4.4)であった。男女別の解析では、有意差を認めないものの、高血圧あり/高尿中Na/K群でオッズ比が高かった。
2022年度は、COVID-19の影響で調査が引き続き困難な状況であるが、可能な範囲での現地調査によるデータ収集を行う。さらに両研究の新規測定データも含めて尿中Na/K比の地域間比較を詳細に実施する。神戸研究・鶴岡メタボローム研究とも今後の追跡調査が計画されており、CAVIの経年変化を見る目的でデータの追加収集が可能な限り行うようにする。
本年度もCOVID-19感染の影響により、各コホート調査の実施が困難であり、CAVIの追加測定も不可の状況であった。残金は研究期間の延長を行って研究費を効率的に使用したいと考えたため次年度使用額が生じた。次年度は、本年度に使用できなかった予算の一部を新規参加者の測定効率的に活用利用して、各コホート調査現場への訪問や実地調査を行う。また、研究分担者と解析についての打合せや学会での成果発表も順次実施する。
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