研究課題/領域番号 |
19K10675
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
足達 寿 久留米大学, 医学部, 教授 (40212518)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Thrombospondin-2 / 住民検診 / 疫学研究 / インスリン抵抗性 / 炎症反応 |
研究実績の概要 |
血清Thrombospondin-2(TSP-2)の多面的作用を疫学的に解明するために、2019年の7月に、長崎県宇久町で行った一般住民検診において、新たに224名に対しTSP-2を測定した。我々のこれまでの検討から、TSP-2は、インスリン抵抗性と関連すること、心房細動などの不整脈者で上昇することを突き止めているが、今回、新たにTSP-2の他に、レムナントリポ蛋白(RLP-C)、アポリポ蛋白(Apo A,B,C3,E)を併せて測定した。 その結果、血清TSP-2は、年齢、性別などで補正しても、インスリン抵抗性の指標であるHOMA指数、中性脂肪、RLP-C、Apo C3,Eと有意に関連しており、強い動脈硬化惹起性リポ蛋白との有意性が証明された。動脈硬化と強く関連していることは、動脈硬化が炎症と関連するという最近の見解に基付き、高感度CRPなどの炎症マーカーとの関連を検討したところ、強い正の関連を認めた。今回、得られた所見は、これまでに未だ報告されたことがなく、極めて新規性の高い研究であると考えられた。 なお、今後はTSP-2の測定数をさらに増やし、多面的作用を有するバイオマーカーとしての意義を検討する他、ストレス、笑い、睡眠時間などの質問票、MMSEによる認知症のチェック、さらには、頚動脈エコーによる内膜・中膜厚、心エコー図検査による心機能(駆出率)や拡張障害の指標であるE/Aとの関連などを詳細に検討し、より多くの疫学的エビデンスを構築することを予定している。 TSP-2の健常者におけるエビデンス構築後、心不全患者における検討を行う。近年の最も懸念される高齢化社会における「心不全パンデミック」に対して、元来、心不全の指標であったTSP-2の意義について、併せて検討して行く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのTSP-2測定実績に加え、2019年度にさらに224人に対し、TSP-2を測定できた。調査人数を増やすことが疫学研究では重要であり、その点においては、おおむね順調に経過していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
インスリン抵抗性が要因となり、心機能低下や心不全発症につながるというCardio-metabolic syndromeのメカニズムに関しては解明する。本邦は現在、超高齢社会によって医療費の増大は社会的重要課題の一つと考えられる。また加齢に伴い、心不全罹患率は上昇し、今後心不全 患者が急増する「心不全パンデミック」の状態が懸念されている。これまでも心不全に関する様々な疫学研究がされているが、心不全発症の予測・予防に関して未だ研究中である。左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)に代表されるように、心不全発症には心機能障害のみでなく、多様 な全身の因子が関係しているためである。 古典的心不全マーカーであるBNPに関しては、心臓の圧負荷など心臓特異的に反応し上昇する。一方で、血清TSP-2は過去の文献より心不全患者のみでなく、大動脈瘤の患者や脳梗塞患者、不整脈、膠原病・妊娠高血圧などとの関連も報告されている(Golledge J, et al. Am J Cardiol 2013;111(12):1800-1804.)。そして今回初めて、我々は一般住民におけるインスリン抵抗性との関連性を明らかにした。このように、心疾患だけにとどまらないTSP-2の臨床的意義を解明することにより、結果的には心不全発症のメカニズムの一つを解明することにつながるのかもしれない。さらにメカニズム解明は、今後の治療標的にも関連し、心不全治療・予防に大きく貢献できることも期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月、3月に出席し、発表を予定して学会がコロナウイルス感染拡大のために延期になり、当該助成金に残金が生じた。翌年度は、残金を合わせて計画的に助成金使用に努めることを目指している。 特に、Thrombospondin-2 (TSP-2)は、1検体の測定料が高額であるため、残金を測定料に還元して、1検体でも多くの測定を行う予定である。
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