薬毒物による毒性機序の解明と毒性評価は法医実務上重要であるが、数多存在する薬毒物の内その毒性機序の詳細が明らかなものは少なく、また近年では危険ドラッグ成分など毒性が不明な薬物も多く存在するため、薬物の毒性および機序をより簡便に解析する手法の確立は法医学上急務となっている。そこで本研究ではターゲットメタボロミクスの手法により変動するシグナル経路を特定することで精度の高い薬物毒性機序の解析・毒性評価を行い、さらにノンターゲットメタボロミクスの手法により特殊な状況で産生される代謝物エピメタボライトを探索することで薬物毒性マーカーを特定する。最終的には細胞毒性機序解析に特化したメタボロミクス法を構築し、法医鑑定に有効な新規毒性解析法の確立を目的としている。 今年度は本研究課題の最終年度にあたり、これまで覚せい剤類を中心に行ってきたメタボローム解析と並行して行っていた、抗てんかん薬の毒性データの解析において、顕著な腎障害に関与するデータが得られた。この抗てんかん薬による腎近位尿細管細胞毒性の研究においては、カルバマゼピンとその類似構造であるオクスカルバゼピンを比較したところ、顕著に細胞毒性に違いが見られることが明らかとなり、オクスカルバゼピンでは、G2期細胞周期停止が引き起こされ、さらにMitotic catastropheを介したアポトーシスを誘導することが明らかとなった。またこの細胞周期停止により細胞老化が誘導されており、ノンターゲットメタボロミクスにより細胞内代謝動態の変動が明らかとなった。これらの結果は、細胞老化現象に特異的な細胞内代謝動態の変化の解明が期待される。
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