研究課題/領域番号 |
19K10684
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾関 宗孝 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (80549618)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝臓 / 胆汁鬱滞 / ビリン / リトコール酸 / MRTF / SRF |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により、HepG2細胞において、siRNAを用いてHepG2におけるMRTFA/B発現をノックダウンし、ビリンmRNA発現量をリアルタイムPCRにて測定したところ、MRTFA/Bノックダウン共にリトコール酸非刺激下においてはコントロールに比較して上昇し、リトコール酸刺激下においては減少することを観察した。このことから、ビリン発現調節にMRTFA/Bが関与していることが示唆された。本年度においては、これらの結果を詳細に検証するため、siRNAを用いてMRTFA/Bをノックダウンし、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、SRF転写活性、ビリンプロモーター転写活性について検討した。さらに、リトコール酸刺激下においても同様の検討を行った。リトコール酸非刺激下においては、MRTFAノックダウンによりSRF転写活性は著しく低下し、この時のビリンプロモーター活性も低下した。一方、MRTFBノックダウンではSRF転写活性は上昇したが、この時ビリンプロモーター活性に有意な変化は認められなかった。これらのことから、リトコール酸非刺激下においては、MRTFAがSRFと複合体を形成し、ビリン発現に寄与しているものと推察された。一方、リトコール酸刺激下においては、MRTFA/Bノックダウン共にSRF転写活性の低下が観察された。しかし、MRTFAノックダウンではビリンプロモーター活性の低下が認められたのに対し、MRTFBノックダウンによりビリンプロモーター活性は有意に上昇した。このことから、リトコール酸刺激下ではSRF非依存的に、MRTFBによるビリン発現抑制機構が存在することが示唆された。昨年度にリトコール酸刺激下におけるMRTFBの核局在を観察したことと合わせ、胆汁鬱滞においてはMRTFBがビリンmRNA発現低下に大きく寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の研究計画では、1. SRF複合体の因子として知られるMRTFAおよびMRTFBがHepG2細胞のいてSRFと複合体を形成していること、2. これらの複合体がビリンプロモーター上のCArG Box配列に結合することによりビリン転写制御に関わっていること、の2点について明確にすることが到達目標であった。しかしながら今年度は自身の異動による研究環境の変化や、コロナ禍における感染症対策を目的とした研究時間の削減のため、当初の計画通りの研究を行うことが困難であった。特に、今年度の課題である複合体形成に関する検討において、学内共通機器センターの質量分析サービスの利用を考えていたのものの、コロナ禍の拡大に対応するためセンターのサービス全体の停止という対策が行われた時期があり、当時は再開の目処が立たなかったことから、研究室内で自身により完結できる手法による研究への変更を余儀なくされた。一方、siRNAによるノックダウンとルシフェラーゼレポーターアッセイにより、昨年度の研究で示唆されたMRTFA/Bのビリン転写への関与を示すデータが得られたことは、幸いであったと考えている。また、SRF複合体因子として知られているMRTFA/Bノックダウン実験において、リトコール酸刺激下においてはMRTFAに比してMRTFBがビリン発現調節に大きく寄与していることが示唆されたことは、昨年度のMRTFBの細胞内局在の変化と合わせて大変興味深く、今後のさらなる検討が必要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度における課題として、昨年度までに得られた知見の確認と全体のまとめを行うこととする。特に、これまでに得られた知見をまとめ、不足する部分を補う実験を主として行い、今年度内に論文として発表することを具体的な目標とする。 昨年度コロナ禍の影響により実行できなかった質量分析による複合体因子の同定に関する検討項目については、今後もコロナ禍の状況により分析サービスの利用が停止する可能性があることから、確実に実施が可能な研究手法により検討できる研究に変更することとする。具体的には、SRF、MRTFA、MRTFBに対して免疫沈降による複合体の分析と、既報のデータを元に推測される複合体因子のウェスタンブロッティングによる同定が適していると考えている。リトコール酸刺激下においてMRTFBはSRF非依存的にビリン発現を抑制することが示唆されたことから、特にリトコール酸刺激下におけるMRTFBの細胞内局在の変化とSRFとの複合体形成について、その詳細を明らかにしていきたいと考えている。その上で、これまでに良好な結果が得られているsiRNAによるノックダウンを組み合わせたリアルタイムPCRやルシフェラーぜレポーターアッセイ等を継続し、これまでに得られた研究結果について再確認しながら不足する部分を補い論文としてまとめることとする。
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