第VIII因子関連抗原は内皮細胞、巨核球、血小板に発現する糖蛋白であり、内皮細胞のマーカーとして知られる。虚血性心疾患法医解剖例について心筋における第VIII因子関連抗原の発現を免疫組織化学にて評価した。虚血性心疾患と診断された法医解剖20例の中性ホルマリン固定パラフィン包埋心筋組織を用いて第VIII因子関連抗原の発現を免疫組織化学にて検討した。死後経過時間は48時間以内とした。マウスの冠状動脈前下行枝を完全閉塞させる心筋梗塞モデルを作製し、梗塞1週間後の心筋組織において第VIII因子関連抗原発現を検討した。虚血性心疾患後の幼弱な線維化巣においては血管密度の上昇を反映して、第VIII因子関連抗原発現が上昇した。リモデリングが完成すると線維化巣での血管密度の減少を反映して発現が低下した。壊死心筋においては瀰漫性の陽性像を示し、出血部位・血漿漏出部位に陽性像を示すためHE染色で観察するより壊死部が目立ってみえる。フィブリン析出部位にも陽性を示した。マウスの心筋梗塞モデルにおいては、心筋が壊死し線維芽細胞が出現し修復過程が起こっている部分に一致して陽性像が観察された。第VIII因子関連抗原は内皮マーカーであり、心筋の組織改築に伴う内皮細胞の動きを検出する。血漿成分も陽性となるため、非壊死心筋にも非特異的に陽性像を示す場合があるという欠点を有するが、従来のHE染色を用いる手法に加え、虚血性心疾患に伴う内皮細胞の動態を明瞭に染め出し、血漿成分の漏出を検出するという点で剖検における虚血性心疾患の補助診断に有用である可能性が示唆された。以上の結果を「虚血性心疾患剖検例心筋組織における第VIII因子関連抗原発現の免疫組織化学的検討」として、令和3年開催の日本法医学会学術全国集会で発表した。
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