1990年代半ばに炙り使用(加熱吸煙)という覚醒剤の新たな摂取方法が登場してから現在まで、覚醒剤事犯は薬物事犯者の最多を推移している。しかし、炙り使用時の能動あるいは受動摂取時の尿中濃度に関する科学的な根拠が存在しないため、裁判で“受動摂取”を主張する事例が散見される。従って、司法において判断の基準となりうる科学的根拠や指標、即ち覚醒剤を能動あるいは受動摂取した際の尿中濃度の違いを明らかにすることが求められている。昨年度までに、能動または受動摂取を模した環境で、マウスにメタンフェタミン(METH)またはモデル化合物メトキシフェナミン(MPA)を吸入させ、摂取環境により尿中濃度に大差が生じること、METHとMPAの尿中排泄推移は同等であることを確認した。今年度は、ヒトにおいて摂取環境と尿中MPA濃度の関連を検討することとした。MPAは一般用医薬品に含まれており、ヒトで経口摂取される(50-100 mg/回)一方、吸入使用されない。そこでヒトでの検討に先立ち、マウスでMPA吸入の安全性を評価した。その結果、摂取用量が同等であれば、摂取方法による作用の違い(加熱煙吸入による毒性増強等)は認められなかった。そこで、MPA 50mgをヒトに受動摂取または能動摂取させた。摂取は、一般的なセダンタイプの車内容量に相当する容量のビニールハウス内で行った。MPA加熱煙吸入後12時間迄は4時間毎、以降96時間後まで24時間毎に区間尿を採取し、尿中MPA濃度を測定した。その結果、摂取状況(受動あるいは能動)によりMPA濃度が大きく変わることが明らかとなった。MPAとMETHの尿中薬物濃度推移が同等とすると、METH受動摂取者は吸入直後の尿であっても、スクリーニングキットで陰性を示すと考えられた。以上より、スクリーニングキットで陽性を示した場合にはMETH能動摂取者と判断できると考えられる。なお、本特定臨床研究は学校法人昭和大学臨床研究審査委員会の承認を受けて実施した。
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