研究課題/領域番号 |
19K10697
|
研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
森田 いずみ 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (20299085)
|
研究分担者 |
小林 典裕 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (90205477)
大山 浩之 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (80572966)
上田 宏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60232758)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 抗体 / シロシビン / シロシン / オンサイト分析 |
研究実績の概要 |
麻薬及び向精神薬取締法で規制されている幻覚性キノコの簡便・迅速で高感度な検出を可能とするオンサイト免疫測定法構築を目的に、昨年度に引き続き検討を行った。幻覚性キノコ成分のシロシビンとシロシンは、その分子量の小ささゆえ、高感度な測定を可能とする高親和力抗体を得ることは一般的に難しい。しかし、親和力が高く特異性に優れる抗体は、免疫測定法構築には必須である。昨年度、シロシビンについて3種、シロシンについて3種、t-ブチルジメチルシリル(TBS)化シロシンについて14種の抗体産生細胞株をそれぞれ樹立した。そのうち、シロシビンおよびシロシンについて、産生された抗体を用いてELISAを行い、詳細な性能評価を行ったところ、抗シロシビン抗体#74と抗シロシン抗体#105を用いる系が最も高感度であった。そこで、これらELISA系で幻覚性キノコ中のシロシビンおよびシロシンの測定を行ったところ、どちらも定量が可能であった。しかし、抗シロシビン抗体の親和力がKa=5.9×10E5 1/M、抗シロシン抗体のKa=3.4×10E5 1/Mと十分とは言い難いものであった。そこで、抗シロシビン抗体#74について、「試験管内親和性成熟」により高親和力抗体への改変を試みた。すなわち、H鎖及びL鎖可変部を遺伝子操作により連結し、野生型の一本鎖Fvフラグメント (scFv) へ変換した。その遺伝子の全域にerror-prone PCRによりランダム点変異を導入して、変異scFvのライブラリーを構築し、当研究室で構築したアレイ型プロファイリングシステムにより、改良型変異scFvの探索を試みた。その結果、ELISAにおいて野生型scFvより小さい50%阻害用量を示す変異体が5種類得られた。そのうちクローン#107は野生型scFvより約27倍大きなKa値を示し、約9倍高感度なELISAを可能にした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、幻覚性キノコ成分のシロシビンおよびシロシンを検出するための抗体を得ることができた。しかし、その詳細な評価から、親和力の改善が望まれた。そこで、まずは抗シロシビン抗体について、「試験管内親和性成熟」により高親和力抗体への改変を試みた。抗シロシビン抗体#74のH鎖及びL鎖可変部を遺伝子操作により連結し、「野生型」のscFvへ変換した。その遺伝子の全域にerror-prone PCRによりランダム点変異を導入して、変異scFvのライブラリーを構築した。この変異scFvライブラリーについて、アレイ型プロファイリングシステムにより探索を行ったところ、改良型変異scFv5種が得られた。この改良型scFvを用いて、さらに高感度な幻覚性キノコ成分の検出が可能となると期待される。本研究の「問い」は、「我々の免疫化学と分子生物学の知識・技術を結集して、これまで抗体産生例に乏しいシロシビンおよびシロシンについて実用的な抗体を創製することに挑戦し、『難物抗原』、シロシビン・シロシンについて目的に適う抗体を世界に先駆けて創製できるか?」であった。本年度、これまでに得られた抗体を用いて、幻覚性キノコ中のシロシビンおよびシロシンの定量が可能であることを確認した。さらにその抗体について、試験管親和性成熟の手法を用いて、親和力を改善することにも成功した。以上、これまでのところ、ほぼ期待通りの成果が得られている、と自己評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度検討できなかった抗TBS化シロシン抗体について、ELISAにおける性能を詳細に評価する。シロシンは分子量が小さく、極性官能基に乏しいため、高親和力抗体の産生が難しい。この難点を克服するために、化学的な誘導体化により分子量を増大させた化合物について抗体を作製する試みである。既にTBS化シロシンに対するモノクローナル抗体は調製済みであり、これらを用いるELISAの感度について、詳細に検討を行う予定である。 また、これまでに得られた抗シロシビン抗体や抗シロシン抗体および抗シロシビン改良型scFvなどを用いて、イムノクロマトグラフィー系の構築に取り組む。さらに、クエンチ抗体(Q-body) を創製し、シロシビン、シロシンに対して、新しい原理に基づく測定系を構築することにも挑戦する。その際に、このような規制薬物の測定においては、擬陽性を極力排除する必要がある。そのためには、より高親和力で特異性の高い抗体が必須となる。イムノクロマトグラフィーやクエンチ抗体作製に用いる抗体やその測定条件などについて、より詳細な検討を引き続き行い、これら新たな免疫測定系の構築を行う。これらの免疫測定系が構築できれば、より簡便なオンサイト検出が可能になるもの、と期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で研究を実施できない期間かあり、実験の一部を来年度に実施する予定であり、そちらへ有効利用する。
|