研究課題/領域番号 |
19K10699
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
久保 真一 福岡大学, 医学部, 教授 (10205122)
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研究分担者 |
原 健二 福岡大学, 医学部, 講師 (00090738)
ウォーターズ ブライアン 福岡大学, 医学部, 助教 (00609480)
高山 みお 福岡大学, 医学部, 助教 (40804802) [辞退]
柏木 正之 福岡大学, 医学部, 准教授 (70301687)
松末 綾 福岡大学, 医学部, 講師 (70309920)
池松 夏紀 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20848410)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フェニルアセチルグルタミン / クレアチン / 尿毒素 / 腸内細菌 / 死因 / 法医解剖 |
研究実績の概要 |
2021年度は、新たに43例の症例について尿中PAG、尿中Cr 濃度の測定を終了した。2020年度までに分析した症例と合わせた合計188例について、尿中PAG、尿中Cr 濃度および尿中PAG/Cr比を、年齢、性別、死後経過時間、障害発生から死亡までの時間(期間)、死因について、統計学的に解析した。尿中PAG/Crと年齢(連続変数)でSpearmanの順位相関係数を出したところ順位相関係数ρ=0.4137(弱い正の相関)(p<0.001)が認められた。尿中PAG/Cr値の群間比較をノンパラメトリック検定(Steel-Dwass)で行ったところ以下の有意差が認められた。【年齢】70歳代が20歳代、30歳代、40歳代に対して有意に高値(p<0.05)を示し、80歳代が20歳代に対して有意に高値(p<0.05)を示した。【死因】死因では、「外傷性脳障害」が「中毒」に比べて有意に高値(p=0.0369)を示した。【死後経過時間】「24時間以内」が「10日以内」に比べて有意に高値(p=0.0189)を示した。【個別症例の検討】188例の尿中PAG/Cr第三四分位数:0.218より大きいPAG/Cr>0.218であった事例のn=47(≒40%)について、それぞれの死因群の中でPAG/Cr>0.218とそうでなかった事例の比率を見ると40%を超えたのは前年度実績報告と同じで、「中枢神経障害」、「凍死」、「外傷性脳障害」であった。内因、外因性の中枢神経障害により高値を示しており、中枢神経障害による腸の蠕動運動の遅延が、尿中PAG/Crの高値に繋がっているものと考える。この結果は、尿中p-cresolの動態に良く一致していた。一方、凍死においては、尿中PAG、尿中PAG/Crともに高頻度に高値を示した。凍死では、低酸素血症による中枢神経障害の可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、新たに1年分の剖検症例(分析可能症例/当年解剖数:43/92)について、PAGとCrの分析を終了した。これまでのデータと合わせて、全188例の尿中PAG、尿中Cr、尿中PAG/Crの3項目について、基本データである年齢、性別、死後経過時間、障害発生から死亡までの時間(期間)、死因について、統計学的に解析した。 追加した症例を含めて法医剖検例における異常高値を判断する基準値を見直した。前年度までと同様に、尿中PAG濃度、尿中Cr濃度および尿中PAG/Cr比は、非正規分布であったことから、第3四分位数以上を異常高値の基準値としたところ、尿中PAG/Cr比は0.218(前年度は0.2450)であったことから、尿中PAG/Cr比0.218を基準値とした。その結果、尿中PAG/Cr>0.218の高値症例は47例(25%;前年度は24.83%)であった。 尿中PAG/Crの高値群について、母集団と死因を比較検討した。各死因群で高値例が母集団を超えるものは、中枢神経障害、凍死、外傷性脳障害であった。 以上のように、症例数、分析項目は順調に進んでいる。一方で、目的である診断意義の解明については、尿中PAGは中枢神経障害のバイオマーカーとなり得る可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの3年間で、188例の解剖症例を集積することができた。尿中PAG/Cr比の基準値は0.218と判断することができた。前年度までのデータによる基準値は0.2450であることから、症例数の増加による変化も少ないことから、おおむね基準値は確定できたものと考える。また、基準値に対し、異常高値を示す病態も明らかとなってきている。 今年度は、これまで集積した188例のデータをもとに、本研究の課題である「法医剖検診断の意義の解明」を行うために、さらに多角的にデータを分析することで、診断意義の解明に繋げる。そのうえで、実際の剖検例における応用を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、令和2年度に続き令和3年度も対面による、国内外の学会が中止となった。令和3年度研究発表に記載したように、オンラインによる学会発表を行ったが、旅費を中心に次年度使用額が生じた。 同様に研究打ち合わせも、メールやWebミーティングで実施し、出張もできなかったことから、次年度使用額が生じた。 一方、この間も剖検試料の収集、PAGとCrの分析は進んでおり、合わせて解析結果から興味ある知見が得られている。次年度は、さらに多角的に解析を行い、オンラインも含めて研究成果を発表するとともに、雑誌論文を行う予定である。
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