本研究の最終目的は異文化間能力の発端である文化的気づきを誘発する教材開発である。すなわち、外国人が日本の病院を受診する際に感じる不安や困難感を、日本人が1人称体験できるVR教材を開発することである。 最終年度は、コロナ禍のため進行が遅れ、2021年度から2022年度まで延長して実施した。最終年度は第3段階にあたり、研究目的は第1段階(2019年度)、第2段階(2020年度)で作成した360°動画教材を評価することである。なお、感染予防とVR酔い予防に配慮し、ヘッドマウントディスプレイを装着しないで視聴できるようにした。この動画教材は、学習目標を設定し、シナリオに基づき逆向きに設計し、360°パノラマ映像として作成した。日本人女子学生がフランス旅行中に腹痛を発症し、現地の病院を受診したところ、虫垂炎と診断され入院、手術する経験を再現している。 2つの看護系大学の学部生(n=19)および大学院生(n=18)を対象に、360°パノラマ動画視聴前後に学習成果およびユーザビリティ評価のための質問紙調査を実施した。学習効果は、4つの学習目標の25項目を得点化して目標達成率を評価した。前後の変化の分析には、Mann-Whitney U testを使用した。ユーザビリティは、効果、効率性、満足度の観点から評価した。学部生、大学院生ともに教材視聴後、目標達成率が有意に上昇した。また、360°パノラマ動画教材のユーザビリティについても、3つの項目すべてで高い評価を得ており、文化的気づきを促進するための教材として一定の学習効果が確認された。さらに、他の学習方法と組み合わせるなど動画教材による学習を深めるために使用方法に関する示唆を得た。
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