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2020 年度 実施状況報告書

院内感染を起こすセレウス菌芽胞汚染を防止する病衣・リネン類の開発と看護手技の改善

研究課題

研究課題/領域番号 19K10838
研究機関椙山女学園大学

研究代表者

石原 由華  椙山女学園大学, 看護学部, 教授 (30369607)

研究分担者 上甲 恭平  椙山女学園大学, 生活科学部, 教授 (20310659)
社本 生衣  岐阜大学, 医学部, 准教授 (40593512)
宇佐美 久枝  椙山女学園大学, 看護学部, 准教授 (80587006)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードセレウス菌芽胞 / セレウス菌乾燥芽胞付着実験 / 改良ビーズ抽出法 / 食紅添加セレウス菌芽胞懸濁液 / 単包アルコール綿消毒 / の字拭き / 縦拭き / 水(流水)洗浄
研究実績の概要

セレウス菌芽胞は病衣や病院リネン類を汚染し、それが感染源となると報告されている。そこでセレウス菌芽胞の付着が最も少ない布を見出すために、同じ織り方ではあるが繊維の種類が異なる布(染色堅ろう度試験用添付白布)に対してセレウス菌乾燥芽胞付着実験を行い、改良ビーズ抽出法を用いて芽胞の付着量について定量的に評価した。布の繊維は8種類(綿、ナイロン、ジアセテート、毛、ビスコースレーヨン、アクリル、絹、ポリエステル)で、織り方は全て綾織であった。その結果、セレウス菌芽胞の付着量が最も少なかったのは、ビスコースレーヨンで、次いでジアセテート、ナイロンで、最も付着量が多かったのが綿、次いでポリエステルであった。しかし、付着芽胞量においてビスコースレーヨンと綿との間に有意差は認められなかった。次に、上記と同じ布に静電気防止加工を施行後に、セレウス菌乾燥芽胞付着実験を行い、改良ビーズ抽出法を用いて芽胞の付着量を定量的に評価した。その結果、静電気防止加工したどの繊維の布においても芽胞の付着量は減少しなかった。
また、皮膚を汚染しているセレウス菌芽胞に対して消毒および洗浄で除去する方法を検討した。セレウス菌芽胞懸濁液を両前腕皮膚に塗布後、左前腕に対して単包アルコール綿による清拭消毒(の字拭き、縦拭き)、水洗浄後の単包アルコール綿による清拭消毒を実施し、右前腕は対照群とした。しかし、セレウス菌芽胞懸濁液は白く混濁しているが皮膚に付着させると透明で目視できず実験が難航した。そこで、セレウス菌芽胞懸濁液に食紅を添加して赤色に着色して、上記の除去法を試みた。その結果、アルコール綿による清拭消毒では芽胞を除去することはできず、また拭き方の違いによる差は殆どなかった。しかし水で洗浄後に滅菌ガーゼで水分を拭き取ってからアルコール綿で清拭消毒した時には、セレウス菌芽胞を完全に除去することができていた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

セレウス菌の院内感染は、病衣やシーツなどのリネン類へのセレウス菌芽胞汚染が看護師の手指や患者の皮膚を介して末梢静脈留置カテーテルからヒトの血液中に混入して菌血症を発症するために起こるとされる。そこで、すでに報告した各種医療用ディスポーザブル手袋にセレウス菌乾燥芽胞を付着させてその付着量を改良ビーズ抽出法で定量的に測定した方法を、今回布および繊維に応用することを試みた。布は、織り方は同じ綾織であるが8種類の繊維で作られた染色堅ろう度試験用添付白布(JIS)を用いた。8種類の繊維は綿、ナイロン、ジアセテート、毛、ビスコースレーヨン、アクリル、絹、ポリエステルであった。その結果、布へのセレウス菌乾燥芽胞の付着量を定量的に測定することに成功し、その方法を確立した。
患者の皮膚を介して末梢静脈留置カテーテルから血液中に混入する経路を遮断するために、前腕皮膚のセレウス菌芽胞汚染を消毒・洗浄して除去する方法を検討した。セレウス菌芽胞懸濁液を作製して前腕皮膚に付着させたが、芽胞懸濁液は皮膚に付着すると無色透明で目視できず実験がうまくいかなかった。そこでセレウス菌芽胞懸濁液に食紅を添加して赤色に着色し、皮膚に付着した芽胞懸濁液が目視できるようにした。その結果、水で前腕を洗いその水分を滅菌ガーゼで拭き取った後に単包アルコール綿で清拭消毒すると芽胞を完全に除去できることがわかった。この食紅による皮膚への着色は目視できることに加えて、アルコールや水で容易に脱色できるため有益である。また脱色後に皮膚に残存するセレウス菌芽胞を培養法で検出することは、脱色すれば芽胞が除去できているわけではないこと、すなわちアルコール綿で拭けば何でも除去できているわけではないことを理解し実感できる効果がある。以上からこの方法は、卒後の臨床現場などで注射・採血時の皮膚消毒法を教育する際のツールとして利用できると考える。

今後の研究の推進方策

セレウス菌乾燥芽胞付着実験および改良ビーズ抽出法を用いて定量的に評価したセレウス菌芽胞の付着量が最も少なかったビスコースレーヨン、ジアセテート、ナイロンと芽胞の付着量が最も多かった綿やポリエステルについて、1本の繊維への芽胞の付着状況を走査電子顕微鏡で定性的に評価する。
病衣の試作品の臨床研究については、現在研究協力の承認を得ている医療施設が新型コロナウイルスの感染拡大に伴い外部者の出入りができない状況であり、臨床研究が実施不可能である。そこで、これまでの研究報告等を再度検索してセレウス菌芽胞の付着しにくい病衣のデザインを考案して、第一次試作品を改良する。
地域在住の成人へのセレウス菌前腕皮膚汚染状況調査を引き続き行う。今までに皮膚から検出されたセレウス菌について、セレウリド産生性を分析してセレウス菌による食中毒の発症メカニズムを検討する。また、皮膚から検出されたセレウス菌株と敗血症患者から分離された血液由来セレウス菌株の病原性を比較検討して、セレウス菌がヒトの血液中で増殖していくメカニズムを解明する手がかりを得る。さらに、血液由来のセレウス菌株と皮膚由来のセレウス菌株について薬剤感受性試験を行い、β-ラクタム耐性株の状況を調べる。またセレウス菌のβ-ラクタム耐性株について、その耐性メカニズムにおいて転写因子であるsigPの関与等を検討する。
皮膚のセレウス菌汚染状況および汚染の除去を調べる方法として、食紅添加のセレウス菌芽胞懸濁液を用いた培養法と今までに汎用されてきたATPで調べる方法を比較検討して、より教育効果の高い方法を検討する。また、我々がすでに考案して報告したセレウス菌芽胞による手洗い効果検出法を用いて、爪からの芽胞除去効果をより高めるために既存のスクラブ法とラビング法の手技・手順を改良する。

次年度使用額が生じた理由

今年度国際学会で発表予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大で海外への渡航ができず、また学会自体が中止となった。また、病衣の第一次試作品について研究協力を得ていた医療機関(病床数500床)で臨床研究を実施して病衣の改良をしていく予定であったが、これも新型コロナウイルスの感染拡大で当該医療施設への出入りができず実施できなかった。そのため、繰越金が生じた。しかし、次年度に細菌の病原性や耐性メカニズム等を解析する専門家を新たに研究分担者として迎え入れて、セレウス菌の敗血症患者から分離した血液由来株と我々の調査で皮膚から検出されたセレウス菌株について、その病原性や性状などの違いを分析するための費用の一部にその繰越金をあてることにした。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] Bacillus cereus芽胞の各種医療用ディスポーザブル手袋への付着に関する定量的評価2020

    • 著者名/発表者名
      石原由華、宇佐美久枝、社本生衣、太田美智男
    • 雑誌名

      日本環境感染学会誌

      巻: 35 ページ: 198-200

    • DOI

      10.4058/jsei.35.198

    • 査読あり / オープンアクセス

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公開日: 2021-12-27  

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