研究課題/領域番号 |
19K10862
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
天野 カオリ 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 准教授 (70316470)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | OVX / エストロゲン欠乏 / 実験的歯周炎 / 軽度機械刺激と損傷 / β-エストラジオール / C-fos / HSP70 / 唾液分泌減少 |
研究実績の概要 |
閉経前後世代女性においては、急速なエストロゲン減少により生じる種々の疾患や不調に加えて歯周炎のリスクが高くなることが知られている。加齢による唾液分泌量減少やエストロゲン欠乏による体内でのカルシウム吸収率の低下により生じる骨粗鬆症が、歯周炎を悪化させる憎悪因子といわれているが詳細は未だ不明である。軽度な刺激により人体組織の細胞は容易に損傷を受け、それらの損傷を負ったまま生存し続ける細胞群の存在について研究を継続している。これまでラットを使用してブラッシングのような日常的な機械刺激により歯肉細胞や舌筋細胞が損傷を受けることを報告した(Amano, et al. Journal of dental research86 .769-774,2007)。また関連研究として歯随細胞に軽度な損傷を与えた場合の歯髄細胞の損傷レベルを観察した。 さらに細胞損傷の関連研究として雌ビーグル犬の下顎骨片側にインプラントを打ち込み実験的歯周炎を惹起させ血流量の計測を行い60日後に灌流固定し、インプラント体周囲顎骨内の血管新生状態について走査型電子顕微鏡にて観察した(Yamamoto,et al. J Oral Biosci. in press 2021)。 本研究は8週齢OVXラットに対して、エストロゲン欠乏環境下でP.gingivalis生菌株を使用して実験的歯周炎を惹起させ、「更年期型歯周炎」を起こしたラットに対して、β-エストラジオール投与ならびに軽度のエストロゲン作用を持つと言われる大豆イソフラボン飼料または普通飼料の投与環境下、60日後に日常的な機械刺激であるブラッシングを歯肉と舌筋細胞に与えた場合の歯周炎組織細胞が受ける損傷レベルを観察する。損傷細胞の標識マーカーとしてCfos抗体を使用し、修復細胞の観察にはHSP70抗体を使用した。 また、唾液腺についても同様に観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験後、8週齢の卵巣摘出ラット(OVX)群24匹と偽手術ラット(sham)群6匹を使用した。飼料は大豆イソフラボン含有飼料群と普通飼料群に分けた。感染菌株にはP.gingivalis(PG)・ATCC33277継代を4ml/2回(1週間)塗布し、感染群と非感染群に分けた。また40日後にβエストラジオール投与群には外科処置にて頚部皮下にペレット(0.1mg/21day)を埋め込んだ。全ラットは約8週間後の16週齢期に深麻酔下にて電動歯ブラシ(Broun Oral B)で下顎中切歯間の歯肉と片側舌筋のブラッシングを1分間行った。常に一定のブラッシング圧を維持するためにブラッシング圧計測器(共和電業)を使用した。ブラッシング後3時間後に4%パラホルムアルデヒド・PBS溶液にて潅流し、上・下顎と歯肉、舌筋、顎下腺と大腿骨を摘出後、24時間再固定後に(上・下顎骨はEDTA溶液により60日間脱灰)凍結試料を作成し、7μに薄切した。16週齢ラットの体重はOVX群がSham群より平均して約10g増加していたが、βエストラジオール・ペレットを埋入したOVX群は数日で体重が減少した。 損傷細胞の標識マーカーとしてC-fos抗体を使用し、修復細胞の標識マーカーとしてHSP70抗体を使用し観察を行った。 ブラッシング後OVX群の歯肉と舌筋細胞において損傷細胞は特に上皮と上皮直下に明瞭に認められた。また、唾液腺(顎下腺)実質の構造変化についても同様に観察を行ったところ、60日後のOVX顎下腺組織は収縮し細胞間にはスペースが多くみられ、一部脂肪化しているのが確認された。また顎骨の吸収レベルを測定したところ、OVXとShamのPG感染で普通食投与群において吸収量が最も高く、非感染のイソフラボン含有飼料投与群で吸収量が最も低い結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と同様に8週ラットOVX群とSham群を計30匹使用し、βエストラジオール投与群と大豆イソフラボン含有飼料と普通飼料投与群の3群(全てOVX15匹/Sham15匹:計30匹)に分け、本年度はラットに実験的歯周炎を起こさせず、より自然な状態でさらに長期間(90日前後)の観察を遂行する。βエストラジオール・ペレットの埋入は70日経過後に行う。 約90日後に電動歯ブラシによる損傷を行う。本実験の目的は卵巣摘出ラットの口腔組織は長期経過でどのような変化が生じるのかを本年度においては、あえて実験的に歯周病の感染をさせずに長期観察する事を目的とする。引き続き顎骨の吸収量レベル計測と唾液腺細胞の観察を行う。 さらに大腿骨密度を計測し、OVX群とSham群の骨密度にどのような変化が生じるのか観察を行う。 また個々の異なる健康または病的環境下においても、臨床的に更年期型歯周炎の予防ならびに軽減策として応用できる事を本研究の最終目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況は良好である、コロナウイルスの影響により国内学会等が全てオンライン開催になった経緯により、出張費として使用予定であった金額が残留した結果である。
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