研究課題/領域番号 |
19K10898
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
齋藤 貴史 山形大学, 医学部, 教授 (80250918)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 褥瘡 / 圧迫創 / 炎症 |
研究実績の概要 |
褥瘡の治癒には、創傷治癒過程における応力が強く影響する。上皮化完了以降の創部の引っ張り応力の加減が治癒へ与える影響を、6週齢雄性ICRマウスの背部皮膚に左右2箇所の切開創を作製し、3日間の創部固定による上皮化完了後、対照群には非固着性ガーゼ、介入群にはハイドロコロイドドレッシング材を貼付し検討した。その結果、ドレッシング材による創部の引っ張り応力の緩和が創の修復、筋線維芽細胞の速やかな退縮を促すことを明らかにした。さらに、褥瘡の重症化メカニズムの一端を解明するため、7週齢雄性SDラットを用いて、褥瘡モデルの作製について基礎実験を行った。褥瘡は、直径10㎜、厚さ10㎜のネオジム磁石にて皮膚を挟んで圧迫(2時間)、解放(2時間)を複数回繰り返すことにより圧迫創として褥瘡を安定して作製することが可能であった。褥瘡発生には虚血再灌流が関与している。先行研究において、糖尿病モデルラットでの同一部位への複数回圧迫創において肉眼的・組織学的に明らかな遅延が認められ、その創形成にNOが関与している可能性が示唆された。そこで、創の形成段階に着目し創の形態学的変化と糖尿病モデルラットにおける創重症化のメカニズムを明らかにすることを目的に、同モデルを用いて肉眼的および組織学的な変化とNOの創形成への関連について検討を行った。その結果、創形成段階において対照群と糖尿病群において肉眼的な違いは認められなかったが、組織学的には糖尿病群においては表皮の層構造が不明瞭となり、炎症性細胞が皮下組織と皮筋にのみ認められ炎症反応の減弱が認められ、血漿中NOxは糖尿病群において対照群よりも低値であることが明らかとなった。これらの結果から、糖尿病モデルラットにおいて創の重症化にNOの減少による炎症反応の減弱や血流低下等が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
褥瘡の治癒に際しては、褥瘡発生に関わる創の応力の影響が重要であるとされる。これまでの検討で、マウスの切開創モデルを用いて、創部にハイドロコロイドドレッシング材を貼付し創部にかかる引っ張り応力を緩和することで創幅が肉眼的により縮小することを示すことができた。更にハイドロコロイドドレッシング材を創部に用いることで、創の治癒過程における引っ張り応力の緩和が、筋線維芽細胞の退縮を促し、創の回復および再生を促進させることを示すことができた。また、褥瘡の発生と進展には虚血再灌流が深く関連していることから、糖尿病ラットの褥瘡モデルを用いて、創の重症化には、血中NOの減少が関与している可能性を示した。創傷治癒過程における応力の加減による創傷治癒の程度の差異とそのメカニズム、褥瘡の重症化に関わる血中NOの関与について基礎研究により示すことができたが、一連の研究の過程でcovid-19によるパンデミックのため、研究時間の不足や研究室が十分に機能しない期間があり、創部組織の治癒過程での炎症や再生に関わる研究が十分に行えなかった。褥瘡の創組織の再生による創組織の回復のメカニズムの検討を行う過程にある。
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今後の研究の推進方策 |
褥瘡の創傷形成および治癒過程のメカニズムの一端を解明するために、応力の加減により創傷治癒の形態に差異が生ずる機序について、抗Alpha-SMA抗体および抗Cx43抗体による免疫組織学的検討を行ってきたが、創の修復や再生に関わるマーカーを加えた免疫組織学的検討を追加する。これらの創傷治癒に関わる基礎研究に加えて、創傷組織の再生促進に関わる検討を行う。マウスモデルを予定しており、再生研究に適切な褥瘡モデルを作成する。これまでの研究で、ラットを用いてネオジム磁石で皮膚を挟んで圧迫(2時間)、解放(2時間)を複数回繰り返すことにより実験に供する圧迫創を作成してきたが、これはマウスに応用可能であり、創再生研究に適したマウス実験モデルを作成することが可能であった。創の修復と再生に関わる機序についての研究は進捗が遅れている。マウス圧迫創にGFP導入同種マウス脂肪由来幹細胞を直接局注して幹細胞投与群を作成し無処置対照群と2群間で、創部位の治癒過程を経時的に組織学的に比較検討する。幹細胞投与群では、投与細胞の生着を蛍光および抗GFP抗体により検出することで、生着率や組織内分布を検討する。また炎症細胞や組織再生に関わる組織学的マーカーを用いて、創傷部位の免疫組織学的検討を行う。これらにより、マウス褥瘡モデルにおける幹細胞投与による組織改善効果の有無と創傷治癒メカニズムの一端を組織学的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由)covid-19によるパンデミックのため、日常業務における負担増加や活動制限などにより研究時間に不足が生じ、また実験室や研究室等が一定期間、十分に使用できず、活動の制約などにより十分な研究環境が維持できなかったため、研究の予定の一部を次年度へ繰り越したため、研究使用物品の購入や成果発表に関わる経費が必要となり次年度の使用額が生じた。 (使用計画)新規動物モデルの作成、サンプリング試料の血液・生化学検討および病理組織学的検討、免疫組織学的検討、各種液性因子や炎症細胞の検討、移植組織の検討等のため、実験動物、実験用器具、遺伝子工学用試薬、遺伝子工学用器具、一版薬品、細胞等の消耗品を購入する。データ処理や成果発表に伴う一般文具やソフトウェア等の消耗品、印刷費、学会発表費用および論文掲載費を予定する。
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