研究実績の概要 |
令和3年度は,乳がん医療と生殖医療に携わる医師および看護師による若年女性乳がん患者の妊孕性温存への情報提供・意思決定支援に関する現状と課題に関する国内外文献レビューを実施した。また,看護師から若年乳がん患者への妊孕性温存に関する情報提供・意思決定支援の際の看護実践, 態度と課題に関する質問紙調査の結果をまとめた。 文献レビューの結果,妊孕性温存に関する情報提供はすべての若年乳がん患者には行われておらず,まず,情報提供の実施,次に,患者の意思決定支援には, 乳がん医療と生殖医療に携わる医師および看護師の連携構築が課題であった。看護師は若年乳がん患者に対して,乳がん治療と妊孕性温存治療に関する情報を提示する,情報についての理解度と意思を確認する,理解を促すなど患者に寄り添った支援を行っていたが,乳がん治療の開始までに患者本人が納得できるライフプランを選択できるよう支援することの難しさおよび限界を認識しつつ,患者の不確かなライフプラン形成を支えようとしていた。 質問紙調査の結果では,妊孕性意思決定支援には多様な専門・認定看護師が携わっていたが,妊孕性支援に取り組んでいる施設は約半数で他施設連携が主流であることが示された。妊孕性に関する情報提供ではがん・生殖領域の看護師間で役割が分担されていること,領域,連携形態の違いによって若年乳がん患者に提供する情報内容が相違する可能性が示された。看護実践では領域によって関与できる時期・時間に差はあったものの, 両領域において若年乳がん患者に対して説明内容の理解の確認や促し,心理的支援を実践していた。 今後,妊孕性意思決定を行わねばならない若年がん患者に迅速で適切な情報提供を行い,支援するために,診療科を超えたチームとしての連携・協働の実際、また,専門分野・領域看護師間での役割,チームとしての役割分担と連携の実態を明らかにする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
AYA世代女性がん患者の妊孕性温存に関して, 若年乳がん患者の支援を中心にがん領域と生殖領域の看護師たちが何をどのように情報提供し, 意思決定を支援しているのか, 患者を中心とした医療者間の連携の実践状況と課題について, 参加観察とインタビューにより支援状況を明らかにしようと考えていたが, 新型コロナウイルス感染の状況からデータ収集ができていない。
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今後の研究の推進方策 |
AYA世代女性がん患者のうち, 子宮頸部がん患者の妊孕性温存ニーズ, 意思決定および意思決定支援に関する国内外の文献レビューを実施し, それを基に, 妊孕性温存意思決定支援看護モデル案を作成する。そして, がん領域と生殖領域の看護師にヒアリングを行い, モデル案を修正する。 次に, AYA世代女性がん患者の妊孕性温存に関して, がん領域と生殖領域の看護師たちが若年乳がんおよび子宮がん患者に, 何をどのように情報提供し, 意思決定を支援しているのか, 患者を中心とした医療者間の連携, 実践状況と課題を明らかにし, パートナーシップ看護支援モデルを検討・修正する。 がん領域および生殖領域の認定または専門看護師で, 実際に妊孕性温存に関する意思決定支援に携わっている看護師各10名を対象として, 参加観察により妊孕性意思決定に関する情報提供とその選択肢から何らかの意思決定をするまでの実際の場面を両方の領域で観察する。看護師がどのように情報提供にかかわり, 意思決定を支援しているのか, また, 看護師とAYA世代女性がん患者とのかかわり, 医師や多職種と患者家族を含めたかかわりの場面を観察し, その中で見聞きした場面を会話の糸口としてインタビューガイドを用いて30分~60分程度の個別面接を行なう。看護師の支援は, AYA世代女性患者やほかの医療者との相互作用により思いや考えのもと行動や言動が生じることから, グランデッド・セオリー・アプローチに準じて質的機能的分析を行う予定としている。 これらの結果をもとにモデル案を創成し, 看護師とAYA世代女性がん患者より意見をもらい, 洗練させ, 検証に向けて準備する。 新型コロナウイルス感染状況により参加観察ができない場合,インタビューにより,看護師とAYA世代がん患者, 医師等の支援の実際の構造を見出し, 検証に向けてモデル案を準備する。
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