研究実績の概要 |
本研究は,分娩期に起こりやすいリスク場面を仮想環境として提供し,リアルにその状態を体験でき,さらにこの教材を用いたリスクの察知とモーションキャプチャシステム(動きを瞬時に数値化する)を用いた行動を評価することにより,助産師自身の危険認知や行動を客観的かつ科学的に分析する。 本年度は,仮想環境教材のためのコンテンツ検討と教材作成・評価方法の検討であった。しかし仮想環境教材作成の前段階として,静止画による対象者の反応をまず観察し,その結果をふまえ教材作成に取り組む方がよりリアルな教材作成につながり失敗が少ないのではないか考えた。そのため,まず分娩介助場面に起こりやすいリスク場面(静止画)を作成し視線を分析した。その結果,リスク箇所発見数, 注視点移動回数およびリスク箇所注視時間は,助産師学生・助産師に有意に差があるとはいえないという結果であった。これは,静止画のリスク要因が顕在化していたことが両者の違いとならなかった要因の一つとも考えられる。またリスク画像の最初の注視箇所は,助産師学生も助産師も物品というよりも人物が多かった。これにより視線の軌跡は人物から物品へと変化するという危険認知探索の方略があるのではないかと考えられる。さらに助産師は,リスク箇所注視時間が0秒であっても注視していないわけではなく,インタビュー調査でリスク箇所の発見とその理由が複数あげられたことである。要するに,リスク箇所注視時間だけが必ずしもリスク判断ではなく,静止画面全体を判断しているのではないかと考えられた。 以上より,VR教材作成には顕在化した事例かどうか,人物配置の場所,画面全体から見えるリスクなど考慮して作成するという示唆を得た。専門家の意見を聴取しながら,事例の詳細なデータや画面の構成・効果などをさらに検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は,仮想環境型教材を作成し,VR教材の作成と評価方法の確立,倫理審査を受ける予定であった。しかし打ち合わせ会議で検討した結果,VR教材作成の前段階として静止画による対象者の反応を観察してから教材作成に取り組んだ方がより良い教材を作成できるのではないか,またVRの既存の文献から実験方法で何が問題なのか,再検討が必要ではないか等意見が得られ,実験前の静止画による実験結果や既存の論文による課題を明らかにした上で教材作成に取り掛かることにした。 また仮想環境型教材の作成がどの範囲で可能であるか情報収集に時間がかかり,具体的な教材のイメージを構築するために様々なアプリケーションや文献を検索・検討しなければならなかった。さらに研究者自身の業務多忙により、エフォートが予定通りいかなかったため,予想以上の時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の静止画像のプレ実験結果を参考に,2020年度は教材作成の完成と評価方法の確立・仮想環境型教材の実験方法の確立を行う。完成後速やかに倫理審査を受け実験を行う。 研究の遅れを取り戻すには,研究分担者と細目に連絡を取り合い,必要時早めに調整会議を開催し,研究の進捗状況について確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の計画を修正したため,2019年度使用予定であった仮想環境教材のためのコンテンツ検討と教材作成・評価方法の検討のための費用に当てる。 前年度購入予定であったVR作成に関する委託費,VRヘッドセットなどVR作成に伴う諸経費に当てる。また実験環境,実験方法,プレテスト,実験評価に関する諸経費を計上している。さらに助産領域の研究動向の把握として学会への参加を行うため国内・国外旅費に関する費用に当てる予定である。
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