本研究は、自律神経のバランスが整う健康法とされる「爪もみ(手足の爪の生え際の井穴というツボに手指で力学的刺激を与える)」が、寝たきり高齢者の自律神経にどのような影響を及ぼすのかを明らかにし、自律神経を整えるケアになり得るのかを検証することを目的とした。 2023年度は新たに研究協力施設を開拓して取り組んだ。研究の協力が得られた施設に入居している高齢者10人を対象に、延べ75回の爪もみを実施した。爪もみ前に脈波測定計アルテット((株)ユメディカ製加速度脈波測定システム)を用いて自律神経を1分間測定し、両手に爪もみを約3分間実施したのち、自律神経を1分間測定した。 対象者の平均年齢は86.7歳で全員女性であった。対象者10人の爪もみ前後の交感神経/副交感神経のバランスをみたところ、爪もみ前に自律神経のバランスが整っていなかったのは52件(69.3%)で、そのうち爪もみ後に整ったのは18件(34.6%)、変化しなかったのは22件(42.3%)、副交感優位から交感優位に変化及びその反対が12件(23.1%)であった。対象者の中には、爪もみをするようになってから「夜良く眠れるようになった」等の発言がみられた。 2022年度に施設入居の高齢者3名に対して、爪もみの長期介入(約2か月間)を行い、介入前後の自律神経活動を測定した際、自律神経のバランスが整う傾向が見出せた結果と合わせると、爪もみの刺激が高齢者の自律神経に良い影響を及ぼす可能性が示唆された。今後、日常生活の中に爪もみを定着させてデータを蓄積し検証していく必要がある。
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