近年、世界的に高齢化が進み、人類は長命という目標を達成しつつある。一方、先進工業国を中心に、自らが納得できるような人生の終焉を迎えることのできない高齢者が増加している。社会の近代化に伴い、都市部人口の増加と地方の過疎化が進み、多縁の煩わしさからの解放も果たしたが、若年からの心身および経済的な自立の準備性がないために、フレイルや孤独感の自己コントロールができず、健康寿命を縮める結果を招いている。その結果、医療費を中心とした支出の増加が、高齢者の経済的貧困を助長し、人間としての基本的欲求である衣食住が満たされないという負の連鎖に陥り、自己実現を果たすことができず生命を閉じる人々が増加している。そこで、本研究は、人口の高齢化を達成した国民総所得が低い途上国において、限定的な経済環境にあっても自分が納得する質の高い人生を終えるための条件や要因を明らかすることを目的とした。 インフォーマントからの聞き取り調査と地域踏査および高齢者支援活動の観察調査によって、強固な地縁と血縁、信仰を土台に、官民連携のもと、地域住民が中心となり、全国規模で高齢者支援活動が展開されているが、担当する住民の知識や経験によって活動状況に格差が生じていることが明らかとなった。また、地域に配置されているのは母子保健や感染症予防対策を行う助産師や衛生管理士であることから地域における高齢者のニーズに対応できていないことが明らかになった。高齢者支援を担当する住民に対する研修を実施するとともに、担当部署の職員が定期的に現地に出向いてプログラムに参加することによって日々変化する高齢者のニーズが把握でき、高齢者のみならず、プログラムを運営する地域住民がさらにエンパワーされることが期待できる。その際、高齢者個々人が育んできた人生観に即した支援プログラムの構築に向けた持続的な現状把握が必要であることが示唆された。
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