本研究は大災害により通常の通信インフラがすべて破壊された状況でも、避難生活を送る人々の安心・安全・安寧を担保し、同時に最前線で活動する看護師の支援も十分行えるような遠隔看護支援システム構築を目指す基礎研究を行った。研究計画当初全く予測していなかったが、新型コロナウイルスの流行に伴い、多くの国民が自宅待機や自宅療養等、命の危機を感ずるような不安な生活を続けることとなり、その原因こそは異なるが、まさしく本研究が問題点を指摘して、予測したことが的中した。避難者のみならず、医師がいない状況で活動する看護師支援の大切さも本研究では重要なテーマとしていたが、これも宿泊療養所等で現実に生じた。そのため現状調査として、実際に感染患者やその予防対応をしている保健所や酸素ステーション、重傷者患者治療病棟、軽症者療養施設、ワクチン接種会場等の現場観察や医療従事者等への聞き取り調査などを行い、知見を集めつつ本研究の方向性の正しさを確認した。一方で、この一連の対応に伴いオンライン診療や遠隔医療に係るサービスや製品が加速的に増加したが、本研究のもう一つの着眼点であった"大災害により通常の通信インフラが破綻した状況"にはほとんど対応できないことがわかった。特に、高速大容量インターネット通信が前提となった機器利用を基本として構成された遠隔医療の仕組みには、究極的な大災害時の対応にはそのまま応用できない。そのため、今期の本研究では低速低容量通信である短波帯を使ったデジタルデータ通信を用いた医療情報の伝送実験を行い、その実用性・有用性を実験的に示すことができた。これにより公衆通信回線網が破綻しても長距離間で情報の送受が可能となり、災害医療に貢献できる可能性を見出した。今後の課題として、少量のデータのみの伝送のため、必要な情報のさらなる絞り込みと、使い勝手向上を目指してインターフェースの改良が必要である。
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