本研究は、消滅危惧集落で暮らしている75歳以上の一人暮らし男性が生活適応上の限界を判断するプロセスを明らかにすることを目的とした。調査地域は、総務省が指定する過疎地域のうち東北地方、関東地方、信越地方、四国地方、九州地方とブロックを分けて8地域を選定した。過疎地域の市町村役場及び社会福祉協議会の高齢福祉担当者に4~5名の対象者の紹介を依頼し、協力の同意を得た34名を対象とした。平均年齢87.05歳であった。一人暮らしの要因は、妻と死別28名、妻と離別2名、妻と別居1名、妻が入院中1名、未婚2名であった。34名中29名は、農作業や山林の管理を継続していた。対象者の居住地域は地理的不利益であるため運転免許証は必需であるが、運転免許証保有者23名、返納者6名、返納を考えている者2名、非保有者5名であった。 対象者の身体的特徴は、視力低下と足腰の衰えを自覚しており、歩行困難で杖歩行の者が3名いた。心理的特徴は、住み慣れた家で最期まで暮らしたいと思っているが、身体の衰えから一人暮らしが継続できなくなると不安があった。社会的特徴は、居住地域に病院や商店がないため、運転免許証を返納すると受診することや買い物へ行くための交通手段がなくなり、運転免許証の返納には葛藤があった。 対象者は、住み慣れた家で最期まで暮らしたいと思っているが、人口減少と高齢化率の上昇により身近に頼れる人がいないが、介護が必要になっても介護保険の利用は考えていなかった。そのため、運転免許証を返納すると一人暮らしが継続困難な状況となることで葛藤があった。また、身体的な衰えにより、食事が作れなくなり、自力でトイレに行けなくなったら、一人暮らしはできないと判断していたことが明らかになった。
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