研究課題/領域番号 |
19K11295
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
飯塚 潤一 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 教授 (90436288)
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研究分担者 |
岡本 明 筑波技術大学, その他部局等, 名誉教授 (10341752)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウェブ・アクセシビリティ / 視覚障害者 / 心的負担 / ユーザビリティ |
研究実績の概要 |
本研究では,視覚障害者にアクセスしやすいページ間リンクなどウェブサイトの階層構造のあり方に加えて,ボタン配置やメニュー表示などページ内の個々のコンテンツのアクセシビリティやユーザビリティも評価することを目的とする。しかし,視覚障害者には,晴眼者向けのリアルタイム・ユーザビリティ評価方法(プロトコル解析法やアイ・トラッキング法など)は使えない。そこで,心拍変動に着目した評価を行ったところ,迷ったり考え込んだりした場面では心拍数が変動することが明らかになった。しかし,従来の心拍計は,密着性をよくするために装着時に胸を清浄する手間が面倒で,かつ心拍計のケーブルを着衣からぶら下げるため,装着に違和感があり,さらに心拍変動にノイズが入り込んでいる可能性があった。 そこで,令和元年度は,スポーツ時に心拍数を計測できる腕時計(スマートウォッチ)が,従来の心拍計と比較して,本研究に利用可能か否かを評価することから始めた。腕に巻くだけであれば簡便で違和感も少なく,かつ胸に直接装着しないので従来の心拍数計測法に抵抗感があった女性にも実験に協力してもらえる可能性がある。 心拍計測を有した定評のあるスマートウォッチを4種類入手し,研究代表者自身の腕に装着しウェブ検索を行った。検索課題としては,あらかじめ検索がスムーズに行えそうな易しいタスクと,目的とする結果が得られそうにない・探索が難しいタスクを選定した。複数のスマートウォッチを取り換えながら検索を行った。すべてのスマートウォッチで難しいタスクを検索した時には,心拍数が増加する結果(RR間隔が短くなった)が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スマートウォッチで,ウェブ検索中の心拍数変化を計測できる結果を得たが,機種やタスクによって,得られた心拍数のデータ精度に検討が必要であることがわかってきた。もともとスマートウォッチはある一定時間の運動をした際の心拍変化を目視するために開発されたものであるため,短時間の心拍変化を計測することを想定していない。ウェブの検索行動においては,ある場面で長時間迷ったり考えたり,迷走が長く続くことがある。この場合はストレスが長く続き,それにともない心拍数も増加し続けるため,スマートウォッチでも明らかに検出することができる。一方,迷いや滞留が短時間に終わることもある。この時は,R波のピーク数が少なく,かつ一つ一つのRR間隔の変動の影響を受けやすくなる。したがって,ストレスを短時間感じたと思われる際に得られた心拍数のRR間隔を正規化するなどデータ処理を試みている。現在もデータの信頼性をどのように担保するか検討中である。 スマートウォッチによっては,心拍変化がグラフでしか出力できない仕様のものもある。この場合はパソコンのディスプレイのRR間隔をスケールで読み取って数値化しているが,この時の読み取り誤差もノイズとなる可能性がある。このため心拍変化を数値として出力できる機種も購入し,現在評価中である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,実験協力者にはスマートウォッチを装着し,かつ独自開発した『映像/音声合成デジタル収録装置』で操作画面遷移の動画,スクリーンリーダーの読み上げ音声,実験協力者の動作など記録する。そして,(1)検索中の心拍数データ(生理的指標),(2)検索後のNASA-TLX値(主観的指標),(3)検索開始と検索完了までの検索時間(行動的指標)を得る。最後にLostnessを算出することを試みる。また,着るだけで心拍数を測ることができる製品についても評価する予定である。 本研究は,視覚障害者と晴眼者の協力を得て,心拍計測・動画撮影・音声録音しながらウェブ検索をすることが必要である。現在,コロナ禍の影響で,実験協力者との対面実験の見通しが立たないが,社会的な環境が整い次第,実験に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は,ウェブでの検査の難易度の違いが,スマートウォッチで得られた心拍数で検知できるか否かについて検討を行ってきた。データの切り出しや後処理を検討していたため,実験協力者による具体的なウェブサイト検索は令和2年度からとなった。そのため,心拍計測データ処理用のソフトウェアの購入や人件費は予定額より下回った。その代わりに,学会などでの情報収集を行ったため,旅費が予定額を上回った。 令和2年度は,コロナ禍が終息し次第,実験に取り組む予定である。
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