研究課題/領域番号 |
19K11296
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小林 正義 信州大学, 学術研究院保健学系, 教授 (80234847)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自動車運転 / 危険認知 / 危険予測 / 手掌部発汗反応 / 前頭前野脳血流動態 |
研究実績の概要 |
2020年度は2019年度に構成した計測システムを用い,健常成人23名を対象に自動車運転認知行動評価装置(本装置)とHondaセイフティーナビ(対照装置)を使った模擬運転テストを実施し,手掌部発汗反応(PSR),皮膚電位反射(SPR),前頭前野の血流変化(oxyHb)を比較した.また,模擬運転の主観的危険度をVASで評価した. 主観的緊張度は本装置5.04,対照装置7.04で対照装置が有意に高かった(p<0.01).PSR(mg/cm2・min)は本装置0.32±0.04,対照装置0.61±0.26,oxyHb(μM・mm)は本装置0.10±0.10,対照装置0.42±0.09でどちらも対照装置で有意に多かった(p < 0.01). 本装置のトラックの追い越しを危険場面,直進を安全場面,一方通行の停止車両追い越しを危険予測場面,対照装置の自転車飛び出しを危険場面,直進を安全場面,信号のない十字路通過を危険予測場面とし,PSRとoxyHbを装置間で比較した. 本装置では,PSRは危険場面0.48±0.08,安全場面0.29±0.04,危険予測場面0.24±0.03で,危険場面で有意に多かった(p < 0.05,p < 0.01).oxyHbは危険場面0.00±0.11,安全場面0.10±0.10,危険予測場面0.16±0.10で統計的な有意差はみられなかった.対照装置では,PSRは危険場面0.69±0.06,安全場面0.57±0.07,危険予測場面0.52±0.07で,危険場面で有意に多かった(p < 0.01).oxyHbは危険場面0.45±0.11,安全場面0.54±0.11,危険予測場面が0.68±0.12で,本装置・対照装置ともに危険予測場面で多い傾向がみられた.以上の結果は,2019年度の実験結果と概ね符合していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次の課題を設定し検討した. 課題1.セーフティナビ操作時の事故群と無事故群の比較 対照装置で事故を生じた事故群(n=7)と無事故群(n=16)でoxyHbとPSRの応答を較した.本装置の危険場面のPSRは事故群0.13±0.08,無事故群0.44±0.28で無事故群が有意に多かった(p < 0.01).oxyHbは事故群0.03±0.17,無事故群0.09±0.56で有意差はなかった.対照装置の危険場面でのSPR潜時は事故群1.29±0.97,無事故群0.89±0.74で,無事故群が短い傾向を示した.PSR潜時は事故群4.91±2.49,無事故群2.54±1.13で無事故群が有意に短かった(p < 0.05).事故群のoxyHbとPSRの低反応は緊張感や危険予測の不足を反映し,事故群のSPRとPSRの応答潜時は,状況変化に対する反応の遅れ=危険認知の遅れを表す所見と考えられた. 課題2.運転映像に応じたPSR・oxyHbの応答特性 運転場面に応じたoxyHbとPSRの応答を検討した.本装置の信号停止と対照装置の直進ではoxyHbとPSRは減少し正の相関を示した.本装置のトラックの追越しと対照装置の十字路の一時停止では,oxyHbの増加とPSRの減少がみられ負の相関を認めた.本装置の右折時の自転車横断と対照装置の車両割り込みでは,oxyHbの減少とPSRの増加がみられ負の相関を認めた.本装置の住宅地の直進と対照装置の路地走行では,oxyHbは増加しPSRは変化しなかった.本装置の左折前徐行と対照装置のカーブ途中の合流ではoxyHbは変化しなかったがPSRは増加した.本装置のT字路一時停止場面と対照装置の大通りの右折では,oxyHbとPSRが増加し正の相関を認めた.これらの結果からPSRの増加は緊張感や情動変化を,oxyHbの増加は危険予測の思考過程を反映すると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
PSRの増加は危険認知による緊張状態を反映し,PSRが多い危険場面ほどoxyHbの減少が大きい傾向が確認された.危険認知にともなうPSR増加と前頭前野のoxyHb減少傾向は,昨年度の実験および過去の研究結果とも整合しており,本装置を用いた模擬運転テストの信頼性と妥当性を裏づける成果と思われる. 今後は,本装置による模擬運転テストとセーフティナビによる運転能力評価をさらに継続し,計60例のデータ集積を目指す.収集したデータのうち,危険を予測する場面と,咄嗟に危険を回避する場面に注目し,PSR(反応量),SPR(応答潜時),前頭前野oxy-Hbの変化と,ブレーキ応答(アクセル/ブレーキの踏み替え,ブレーキ応答潜時)の変化を詳細に検討し,危険予測と危険認知を評価する本装置による模擬運転テストの独自性(有効性)を検証する.また,本装置による模擬運転テストの判定プロトコルと,今後の実用化試験の方向性(ウェアラブル計測システムの導入可能性等)を検討する.
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