学校教員の音声疲労の予防に役立てるように音声疲労を軽減する発声訓練法を創出する計画であった.しかし,3年間のコロナ禍で学校現場への対面調査が制限されたため最終年度は,言語聴覚士養成校の学生の臨床実習における音声疲労の実態を調査し,学校教員の音声疲労研究に役立てることを目的とした. 【予備調査】臨床実習の経験のある言語聴覚士養成校の学生20名について,臨床実習期間中の音声疲労の実態調査を行った.そのうち12名が声の出しにくさや嗄声,さらに発声努力の増加などを訴えていた. 【対象】喉頭疾患の病歴のない学生20名と臨床実習の経験のない学生15名. 【調査期間と調査内容】臨床実習期間前,臨床実習開始直後,臨床実習中間日,臨床実習最終日,臨床実習終了後について,われわれが開発した音声疲労質問紙(VFI;Vocal Fatigue Index)を実施した. 【結果】臨床実習経験のない学生と臨床実習を経験した学生では,臨床実習期間前と臨床実習期間後のVFI得点に有意差はなく,音声疲労の自覚度には差がないことが示された.一方,臨床実習を経験した学生では臨床実習期間中のVFI得点が,臨床実習期間前後と比較して有意に高くなり,音声疲労の自覚度が高いことが示された.さらに音声疲労に関与すると考えられる1日の総発話時間,睡眠時間,精神的緊張度,身体的疲労,精神的疲労,話し方(声の大きさ,高さ,発話速度)についても調査をすすめると,明らかにこれらの要因についても増悪していることが示された. 【結論】臨床実習という緊張を強いられる場面においては,音声疲労を増悪させるいくつかの要因が作用すると考えられた.同様の現象は,学校教員の教育実習場面でも観察できると考えられる.また,言語聴覚士の訓練対象は1名であるのに対して,学校教員は対象児童の数が多い.したがって,言語聴覚士よりも音声疲労の程度は高いと推察される.
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