近年、模擬大腿義足(以下、模擬義足)を非麻痺側に装着して歩行練習を実施する方法が、麻痺側への荷重を機械的に行うことができるため有効であると考えられている。しかし,この模擬義足歩行時の非装着側下肢の筋活動や、関節運動の特徴について十分に検討されていない。そこで、本研究は、健常者での通常歩行と模擬義足歩行時における非装着下肢の筋活動、及び下肢関節運動の差異を明確にすることを目的とした。 測定は、通常歩行と模擬義足歩行の2種類とし、模擬義足歩行は装着直後(練習前)と、2日間の模擬義足歩行の練習を実施した後(練習後)に測定を実施した。模擬義足は模擬大腿ソケットとSACH足部で構成されたものを使用した。測定項目は、歩行速度と下肢筋電位量、下肢(股・膝・足関節)関節角度とした。 2022年度までに、筋電位量の測定を実施した結果、通常歩行時と比較し、模擬義足歩行時の立脚期の大殿筋・中殿筋・ヒラメ筋が有意に増加し、遊脚期の大殿筋・大腿直筋・ヒラメ筋の活動が有意に増加することが明らかとなった。 2021年度と2022年度は、関節角度の測定を実施した。測定項目として、ビデオカメラの映像より動作解析ソフトウェアを用いて1歩行周期における各ピーク値を求めた。その結果、通常歩行と比較し、模擬義足歩行時の股関節の伸展ピーク値が有意に増加した。膝関節は立脚初期の屈曲ピーク値が有意に増加することが明らかとなった。 結果より、非装着側下肢の模擬義足歩行時と通常歩行時の下肢の筋活動と関節運動の違いが明らかとなった。それにより模擬義足歩行は、非装着側下肢への荷重を促し、筋活動を増加させることが示唆された。しかしながら、足部の過度な筋活動を促す危険性も示唆され、片麻痺者への歩行練習として模擬義足を用いる場合は、義足足部の種類も考慮する必要があると考える。
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