本研究は、リハビリテーション時(種々の体性感覚刺激時)の自律機能変化に対する情動の影響とその神経機構を明らかにすることを目的としている。これまでに本研究では、健常成人並びに正常動物(麻酔下、意識下)において、動脈圧・心拍数が触刺激によって低下すること、その低下は自律神経を介すること、そして自律神経を介する機序の一部に情動が関与することを明らかにしてきた。また、触刺激には侵害刺激による昇圧を抑制する効果があることをヒトにおいて証明し、その抑制には情動反応に重要な扁桃体中心核(以下、CeA)が関わる可能性を麻酔下の動物において示唆した。 本年度は、これまで行ってきた正常動物での触圧刺激時の反応が慢性疼痛モデル動物においてどのように変化するかについて、情動に重要なCeAのセロトニン放出反応に着目して検討した。慢性疼痛モデルとして、一側後肢の神経結紮モデル(ラット)を用いた。 麻酔下の正常動物ではCeAセロトニン放出が触刺激により減少することを既に報告しているが、麻酔下の神経結紮モデル動物では、神経結紮側に触刺激を加えると減少反応が増加反応に転ずることを見出した。 一方、侵害性の機械的刺激(ピンチ刺激)を用いた場合、セロトニン放出は測定したCeAとは反対側の皮膚への刺激によって増加し、同側皮膚への刺激では変化しない(無反応である)ことを正常麻酔下動物で明らかにしてきたが、一側神経結紮モデル動物では同側刺激の場合も結紮側への刺激の場合は、無反応が増加反応に転ずることを明らかにした。 これらの結果より、慢性痛がある皮膚側への触刺激はCeAセロトニン放出に対して侵害刺激と同様の効果をもたらすことが示された。種々の痛みを有する患者へのリハビリテーション効果のメカニズムを知るために、今後、慢性疼痛モデル動物でのさらなる検討が必要である。
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