本研究は、脳卒中片麻痺者の歩行再建に必要な身体能力として、歩行時の左右脚間の体重移動と床反力に対する応答に関係する側方バランス機能に着目し、左右の床外乱刺激に対するバランス応答を明らかにすることを目的とするものである。側方外乱に対する姿勢制御戦略の生体力学的特徴の知見は、脳卒中片麻痺者に限らず、高齢者や種々の患者の転倒予防策に貢献できる可能性がある。本研究では、設定した方向、速度、振幅でテーブルを水平移動させる床外乱刺激装置を用いて、左右の床外乱刺激に対するバランス応答を解析するものである。 共同研究者の研究室において実施した、健常成人を対象とした予備的な実験結果をもとに、被験者や外乱条件を拡大して実験を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大に伴う研究環境の制約(病院施設への立ち入りならびに被験者募集の制限)により実験実施が困難であった。研究環境の大幅な回復は見込めないことから、実験実施環境の見直しと整備を行った。具体的には、研究代表者の所属する研究機関において被験者募集、実験実施が行えるよう、外乱装置駆動環境の整備と被験者募集の準備を行い、健常成人を対象に、高齢者や障害者を想定した視覚条件を設定する実験を行った。 視覚条件を開眼、閉眼、視野狭窄の3条件とし、30秒間の静止立位の足圧中心位置を比較した結果、3条件間でCOP軌跡の総移動距離と二乗平均平方根値に有意差はなかった。また、開眼と閉眼の2条件間で右方向への床移動外乱刺激に対する筋活動応答を比較した結果、筋活動開始時刻で左右前脛骨筋、左脊柱起立筋、右下腿三頭筋に有意差があった一方、筋活動量は条件間に有意差はなかった。本研究結果から、 側方外乱に対する筋活動開始時刻では、左右の前脛骨筋・左脊柱起立筋・右下腿三頭筋で、側方外乱での筋活動開始時刻と視覚条件に関連があることが示された。
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