把持運動は、運動の企図や運動指令、随伴発射/遠心性コピー、実際の感覚フィードバックなどの信号によって制御される。本研究は異なる脳領域間の神経活動のコヒーレンスを調べて、把持運動の意図や随伴発射に関わる信号の流れを明らかにすることが目的である。ヒトでの先行研究では、運動開始前の意識下のprospectiveな信号が、運動意図に影響を与えることが知られている。実験では高速液晶シャッターを導入して、把持運動の直前に、物体を予めプライミング刺激として提示し、把持物体がプライミングと一致、不一致の場合を用意して、サルの把持運動の運動時間を計測した。物体は異なる把持運動を必要とする板とレバーを用意した。すべて一致条件のセッションでは、プライミングを0ms 5ms 7ms 20ms 50msに設定し、7ms以下が意識下プライミングとなる。この場合には、0msの場合は他の条件と比べて運動時間は長く、プライミングの時間が長くなると、運動時間は次第に短くなった。意識下で運動の企画が行われていると考えられる。また、一致条件と不一致条件の混合セッションでは、不一致条件で把持物体がレバーで運動時間が短く、板のときは運動時間が長くなりプライミングの長さの影響が見られなくなった。さらに、一致条件において板を把持すると、プライミングが20ms以上で運動時間のピークが2つ現れるようになった。この遅い方のピークは、板を不一致条件で掴む場合と同じ時間であった。以上のことは、一致不一致混合セッションにおいては、サルが戦略を変え、レバーに強くバイアスをおいて予めその物体を掴む計画をしていたと思われる。プライミングによる意識下の運動の企図は、この場合には抑制され、場合によってはプライミングが意識に登る場合にもバイアスの影響が出ることを示した。この結果は、第45回日本神経科学大会においてポスター発表されている。
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