研究課題/領域番号 |
19K11318
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
成田 大一 弘前大学, 医学研究科, 助教 (90455733)
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研究分担者 |
下田 浩 弘前大学, 医学研究科, 教授 (20274748)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リンパ管ネットワーク / 3次元ヒト皮膚モデル / 超音波治療 |
研究実績の概要 |
がんの外科治療に伴うリンパ浮腫は,リンパ管ネットワークの欠損・破綻に起因している。我々は,この破綻した部位に超音波によって新たにリンパ管ネットワークを誘導・形成することでリンパ浮腫の新規治療法を確立することを目標とし,本研究課題では,機能的なリンパ管ネットワークを持ったよりヒトに近いin vitroモデルを構築し,このモデルを用いて超音波のリンパ管新生誘導に対する有効性を明らかにすることを目的としている。 令和元年度は, Layer-by-Layer (LbL)法を用いることで我々が既に構築している3次元ヒトリンパ管形成モデルと3次元ヒト皮膚モデルを組み合わせることで真皮層にリンパ管ネットワークを有する皮膚モデルを確立することを中心に実験を実施した。具体的には,細胞外マトリクスナノフィルムコーティングしたヒト線維芽細胞でヒトリンパ管内皮細胞をサンドウィッチ状に積層してリンパ管ネットワークを備えた真皮層を作製し,さらにType Ⅳコラーゲンでコートした上層にヒトケラチノサイトを播種して表皮層を作製することで組織を構築した。構築した3次元ヒト皮膚モデルをリンパ管ネットワークの形成と皮膚の階層性に着目して分子形態学的解析を行った。 その結果,真皮層には豊富な細胞外基質を有する真皮様結合組織が構築され,その内部には毛細リンパ管網特有の管腔構造から成るリンパ管のメッシュワークが形成されていた。また真皮層の表層では,基底膜上に表皮細胞の分化と明瞭な角化形成を伴う表皮様構造の形成が誘導された。 これらの構造はヒトの皮膚を高度に再現しており,本研究課題への適応のみならず,生体機能・病態解析ツールへの応用が期待される。今後はこのモデルを用いて超音波のリンパ管新生誘導に対する有効性を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも示した通り,令和元年度の研究によりヒトの皮膚を高度に再現するリンパ管網含有ヒト皮膚モデルを確立できた。さらにVEGFなどを含む種々の増殖因子により培養環境を調整することでLbL法を用いなくても真皮層を構築できる可能性があることが分かってきている。また,超音波のみならず電気刺激など別の物理刺激を加える培養環境も整ってきており,計画通り実験は順調に推移していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,確立したリンパ管網含有ヒト皮膚モデルに対して超音波を種々の条件で照射して,そのリンパ管ネットワークの形態形成に与える影響を解明していく予定である。しかし,超音波の照射条件は非常に多岐にわたっており,リンパ管網含有ヒト皮膚モデルは作製に時間と手間がかかるため,条件の選定用には不向きである。 令和2年度は,ヒトリンパ管内皮細胞の単層培養ならびにリンパ管網含有ヒト真皮モデルを用いて実験を実施し,超音波の照射条件を絞り込むとともに,そのリンパ管ネットワークの形態形成と分子制御機構に対する効果を免疫組織化学やWestern blottingなどを用いて明らかにする。そして超音波の照射条件を絞り込んだ後にリンパ管網含有ヒト皮膚モデルに適応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】令和元年度はリンパ管網含有ヒト皮膚モデルの確立を中心に研究を進め,また培養細胞への超音波照射環境をテストするために超音波治療器のプローブのみを購入した。そのため超音波治療器本体分の余剰金が生じた。また当初予定していた学会(山口県宇部市)への旅費は,新コロナウイルスにより学会が紙上開催となったため使われず,その分の余剰金が生じた。 【使用計画】培養細胞への超音波照射環境が整ったため超音波治療器本体の購入費として使用する。また,別の学術集会への旅費ならびに組織標本解析のための試薬の購入費として使用する。
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