研究課題/領域番号 |
19K11321
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
内山 靖 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (90302489)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 歩行非定常相 / 歩行初期加速 / 体幹加速度 / 圧中心ー体重心 / 協調制御 / バランス |
研究実績の概要 |
歩行開始(Gait Initiation; GI)は、立位での静的な状態から随意的な姿勢調整を経て周期的な歩行へ変化する複雑な制御過程で、定常歩行よりも随意的で多彩な生体機構が必要となる。姿勢制御では圧中心(Center of Pressure; COP)と体重心(Center of Mass; COM)の協調制御が重要で、COPとCOMの相互作用によって動的な姿勢制御の安定性を示すことができる。 地域在住高齢者に対して、立位から歩行開始までを運動学的なパラメータをモーションキャプチャ、足圧分布計、加速度計を用いて生体情報を取得し、動き始めから3歩目までを解析した。主な指標は、COPとCOMの相互作用を示す協調性指標(CI)を左右・前後の方向ごとに算出し、3軸方向の体幹加速度RMSとともに解析を進めた。その際、対象者の歩行速度・バランス能力を考慮して各指標との関係を比較した。 CIは、前後方向でバランス能力の低い高齢者が有意に低かった。また、体幹加速度のRMSは鉛直方向では高齢者が若年者よりも有意に小さく、前後方向ではバランスの低い高齢者が有意に小さかった。CIは歩行速度に影響を受け、バランス能力の違いによって大きな重心移動が必要となる前方向や両脚への交互の荷重移動に必要な左右方向が巧みに調節され、初期歩行の重要な役割である効率的な加速につながっているものと解釈できた。さらに、体幹加速度には重心移動と微細な制御の成分が含まれる性質があるため、異なる次元の評価に利用できる可能性が見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体としてはCOVID-19前に計画した研究課題であり、2020年からCOVID-19によって研究全体に大きな影響を受け、総合的にはやや遅れている状態にある。 一方で、2023年度については、地域在住高齢者を対象に対照群を含めた計測を完了して解析を行い新たな知見を見出した。この成果は国際学会での演題採択と発表に結びつくなど順調に進展している。また、解析の結果、体幹加速度が初期歩行に与える影響について周波数成分による揺らぎと随意的な加速の分離をはかるなど、情報科学的手法を加えた解析を進めることで新たな知見が得られる感触を具体的に得ている。 なお、COVID-19による社会生活は落ちつきを取り戻しているものの、虚弱性の高い高齢者や有病者の測定には、感染リスクの管理を含めて依然として慎重な対応が求めれているため、当初計画の対象者群の選定と実行には課題が残る。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、可能な範囲で虚弱高齢者ならびに有病者の測定と解析を模索しつつ、加速度における周波数解析に基づく揺らぎと微細な立ち直りの制御が、いかに初期歩行の加速に結びついているのかを情報科学的な解析を含めて進めていく。 これらの成果は、さらに学会発表とともに昨年までの成果を国際雑誌へ投稿するための工程を直実に進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に有病者の測定の可能性が残されており、あわせて論文執筆・投稿にかかる最小限の費用を確保しておく必要があるため。
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