本研究は、複合現実技術とマイクロソフト社のHoloLensを利用して、高齢者や患者の日常生活に近い環境で注意機能評価と訓練を行うための新しいアプリを研究開発し、実証試験を行って注意機能評価のための基準値等を明確にするとともに、注意機能評価・訓練としての開発アプリの有効性を検証するものである。コロナ禍と利用する機器のHoloLens2の供給遅れから研究を1年延長し、4年間の研究として以下のことを実施した。 (1)注意機能を訓練するためのアプリとして、これまでの我々の研究成果から有効性が示唆されているモグラたたきゲームのHoloLens版を開発し実験を行った。この結果、旧モデルのHoloLens1の問題であった視野の狭さ、新しいユーザインタフェース(頭を動かすことによる注視、エアータップな ど)の難しさを新モデルのHoloLens2では改善できることを確認した。 (2)日常生活に近い環境で注意機能を評価するアプリとして、注意機能の評価の机上検査として我々が独自に開発し有効性を検証済みの「片付け課題」をHoloLens2で遂行することを検討し、机上の片付け課題では困難であった難易度を動的に変更してゲーム感覚で遂行可能な新しい「片付け課題」を開発した。「片づけ課題」は、物品操作に伴い視覚刺激が変化するもので、物を探す、物を移動させる、全体の見通しを立てる、などの一連の活動で注意を能動的に向ける必要がある課題である。また「片づけ課題」をHoloLens2で実行するには、物体の把持、移動、配置などの操作を習得する必要があり、その練習のアプリも開発した。そしてこれらの結果をSCiP2022で発表した。 実験については、コロナ禍の状況で感染リスクが高い高齢者を対象にすることはできないと判断し、研究チーム内での実験に限定したが、今後、開発したアプリを利用した臨床実験を実施する計画である。
|