令和5年度はそれまでの研究成果を整理しながら、学会および論文発表を中心に行った。特に10W半導体レーザー照射が痛覚閾値に与える影響は、本研究課題の主たる部分をなすが、無作為化比較対照試験により得た知見を学会発表することができた。加えて、その基礎データとして10W半導体レーザー照射により生じる組織温上昇を検討し報告した。これまではいわゆる低出力レーザーには組織レベルでの温熱作用は無いとされてきた。10W半導体レーザーは、パルス照射により熱傷等を避けつつ比較的高強度のレーザーを照射し、光線療法のうち低出力レーザーとして扱われてきた。本課題の結果から、皮下1㎝の深部組織温が、レーザー照射により有意に上昇することを確認した。急性炎症等の温熱刺激が禁忌あるいは注意を要する病態に対し、リスク管理上有益な情報を発信することができたと考える。さらにリハビリテーション等では深部温熱療法は重要な治療手段である。これまで10W半導体レーザーを含む低出力レーザーはその選択肢には入らなかった。しかし本成果による深部温上昇効果が認められたことで、深部温熱療法の選択肢になり得ることが明らかになった。一方、その温度上昇は照射終了後数分で有意な変化が無くなることも明らかになった。臨床的にはレーザー照射終了後、直ちに運動療法等と組み合わせて軟部組織の治療を行うことが有用であると示唆された。これらは本研究課題の副次的成果であるが、組織温上昇で生じる温熱作用は、局所循環改善や組織の緊張抑制、痛覚の閾値上昇などにより疼痛緩和にも働くことが示唆されており、本研究課題の主たる目的である10W半導体レーザー照射による疼痛緩和作用を考えるうえでも有益な基礎情報となった。また令和5年度は、本研究課題の一部として出力180mWのレーザー療法による疼痛緩和作用も検討し、その成果を学術論文として投稿することができた。
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