研究課題/領域番号 |
19K11338
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
保原 浩明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (40510673)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 義足 / 大腿切断者 / バイオメカニクス / 歩行 |
研究実績の概要 |
片側大腿切断者において観察される左右非対称な歩行は,一側肢への過負荷蓄積を通じて筋骨格系障害の潜在的リスクとなる.なかでも,接地初期における鉛直地面反力の時間変化率(Loading Rate)は,片側大腿切断者特有の非切断側・残存部位における変性疾患の誘因となることが示唆されている.そこで本研究の目的は,様々な歩行速度における Loading Rate を片側大腿切断者から大規模に計測し,その関連因子の解明に挑戦する.2019年度は新たに片側大腿切断者11名および健常者16名の歩行(8段階速度)をフォースプレート内蔵トレッドミルで計測し,過去に計測済のデータと合わせて計72名分(片側大腿切断者25名,健常者37名,模擬義足使用者10名)の歩行データベースを構築した.片側大腿切断者の非切断側・切断側および健常者の片脚を解析した結果,着地時Loading Rateは,義足側よりも非切断側で有意に値が大きいことが明らかとなった.また,その値は健常者と比べても有意に高いことから,非切断側における筋骨格系障害の潜在的リスクが高くなっていることが示唆された.加えて,着地時Loading Rateは歩行速度が速くなるにつれて高くなることが片側大腿切断者の非切断側・切断側および健常者の片脚で確認された.片側大腿切断者に関して言えば,このような着地時Loading Rateの増大は,切断者個々人の特性(性別・年齢・身長・体重・切断歴等)と使用している義肢パーツの組み合わせ,ソケット適合,歩行リハビリテーションの経験年数といった複数の要因が絡まって生じている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は新たに片側大腿切断者11名および健常者16名の歩行をフォースプレート内蔵トレッドミルで計測し,過去に計測済のデータと合わせて計72名分(片側大腿切断者25名,健常者37名,模擬義足使用者10名)の歩行データベースを構築した.これは同一プロトコルで片側大腿切断者と模擬義足使用者を計測した実験系では世界トップクラスのデータ数となった.特に,筋骨格系に左右脚差がある集団を計測するにあたっては,当該実験で使用するフォースプレート内蔵トレッドミルが左右分離ベルトを有していることから,各脚での踏み分けによる地面反力成分の分離も容易であり,そのメリットも大きい.当該実験で得られた実験データに関しては,その共有可能性と共同研究に関してすでに4か国の研究者から問い合わせが来ている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も引き続き,片側大腿切断者,健常者,模擬義足使用者を対象に8段階速度での歩行をフォースプレート内蔵トレッドミルで計測し,データ数を増やしていくことを考えている.そのうえで,複合要因でその大小が決定する着地時Loading Rateの関連因子を解明することにも挑戦したい.そのためには必要な統計手法の知識も習得し,サンプルサイズと各因子の貢献度も考慮した統計モデルの構築にも取り組む予定でいる.また,将来的には,歩行における着地時Loading Rateの大小のみならず,種々の義肢パーツを使用することによる潜在的な筋骨格系障害リスクと,そのリスクを低減させるために必要な諸条件や実際の使用感覚も組み込んだ統計的モデルの作成にも挑戦したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
計測にご協力いただいた下肢切断者からボランティアの申し入れが相次いだことから,被験者謝金の支出が少なくなった.次年度以降は,解析に必要な統計ソフトの購入を検討している.
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