ヒトは食べ物に対し、「美味しい」や「美味しくない」といった感覚を持つが、これらはあくまでも主観的かつ感覚的な評価である。このような嗜好感覚を客観的かつ定量的に評価する事は難しく、不明な点が多い。もしこのような評価が可能になれば、脳機能障害等により対話困難となった患者に対しても美味しい食事の提供が可能となり、食事面からQOLの維持・向上に繋がると考え、これまで、嗜好を客観的に定量できる評価方法の創出を試みてきた。一昨年度の実験では、近赤外脳機能計測法(fNIRS)を用い、「美味しい」や「美味しくない」といった嗜好と前頭前野における脳活動との関係について調べた。また昨年度は、視線動向測定法(アイトラッキング)を用い、「食べたい」や「食べたくない」といった嗜好と視線滞留時間および瞳孔径との関係について調べた。そこで本年度は、脳活動、視線滞留時間、瞳孔径を同時に計測し、主観的嗜好との関連について検討した。被験者に3種類の試験飲料を自由に飲んでもらい、その中から1つ好きな飲料を選んでもらう試行を行った。試行中、被験者の前頭部にfNIRSセンサーを装着して脳活動を記録すると同時に、視線動向測定用メガネを装着して視線動向・瞳孔径を測定した。試行後に、3種類の試験飲料の中から一番好きな飲料を1つ選んでもらい、試験飲料の味を吟味している時の脳活動、視線滞留時間、瞳孔径を比較して、それらの関連について検討した。その結果、脳活動に関しては、好きな飲料を飲んでいるときに脳活動が抑制されている被験者と亢進している被験者の両方が現れた。視線滞留時間は好きな飲料を長くみる傾向がみられた。そして、瞳孔径は好きなものを飲んでいる時に小さくなる傾向がみられた。これらのことから、脳活動や視線、瞳孔径を調べることで、ヒトの「美味しい・好き・食べたい」という嗜好感覚を客観的に評価できる可能性が考えられた。
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