研究課題/領域番号 |
19K11361
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仲泊 聡 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (40237318)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 視線 / リハビリテーション / 視覚障害 |
研究実績の概要 |
本研究では、全盲かそれに近い重度の視覚障がい者の見た目の視線を、ビデオベースの視線計測器を用いて測定し、この位置のフィードバックにより、彼らの内的視線による空間定位の精度を向上させるシステムを開発する。先行研究により明らかになった課題の一つである全盲者の見た目の視線の大きなズレと不安定さに注目し、これを矯正し安定化させる訓練システムの開発を研究の中心に据えた。これまで、重度視覚障がい者の視線についての研究は、皆無に等しい。ともすれば、全盲の本人達にとっては無用の長物とさえ考えることのある自らの眼球を、意義深い行動支援に用いるということが、彼らの精神的安寧にも繋がると期待される。 初年度となる本年度では、被験者の正中正面に対し、見た目の視線が近づくと音響によるフィードバックがかかるシステムを開発した。当初の予定通り非接触型視線計測器(EyeLink社製、理化学研究所保有)の貸与を受け、正面においたモニター上の視標と見た目の視線が合うと音響でフィードバックする仕組みを整えた。また、同時にHMD型の簡易視線計測装置(Fove0、先行研究で購入済)においても同様の実験とさらに画面中央から左右に見た目の視線が離れると断続的なビープ音の間隔が早まるようなシステムを用意した。本年度においては、先行研究からの倫理審査上の変更をまだ行っておらず、実際の被験者を用いた記録は行なわなかった。なお、別研究(AMED課題番号M09-18004)ではあるが、眼鏡型のカメラデバイスから撮った画像を遠隔地にいる支援者が閲覧し、これを説明した内容をテキスト情報を介して人工音声でフィードバックするシステムの試用を経験した。将来的には、このようなシステムに本研究事業の内的視線情報を加えることにより、さらに的確な支援につながるデバイスへと進化させることができるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、被験者の正中正面に対し、見た目の視線が近づくと音響によるフィードバックがかかるシステムを開発できた。非接触型視線計測器の貸与を受け、正面においたモニター上の視標と見た目の視線が合うと音響でフィードバックする仕組みを整えた。また、同時にHMD型の簡易視線計測装置においても同様の実験とさらに画面中央から左右に見た目の視線が離れると断続的なビープ音の間隔が早まるようなシステムを用意した。しかし、本年度においては、先行研究からの倫理審査上の変更をまだ行っておらず、実際の被験者を用いた記録は行なわなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、以下の3つの大きなテーマを有している。研究計画には現時点で変更はない。 テーマA: 健常者に対して、正面方向に視線の手がかりとなる目標物がある場合を設定し、これだけを見ている場合と、これを見つつ他の周辺視野に提示した課題を行っている場合の眼球運動を記録する。さらに正面方向の目標物がない場合についても同様の記録を行い、固視微動を含む眼球運動特性を解析する。 テーマB: テーマAと同じ計測系で、重度視覚障害者についても、正中正面と思われるところを内的視線で凝視した場合の見た目の視線を計測し、健常者データとの比較を行うことで、その視線安定性の評価を行う。それと同時に、被験者の正中正面に対し、見た目の視線が近づくと音響によるフィードバックがかかるシステムを開発し、このトレーニングの前後での見た目の視線の安定性の変化について評価する。次に、その左右・上下方向及び固定した斜め方向への任意の角度に対して音響フィードバックを行うシステムにより各方向の視線矯正訓練を行う。訓練についても同じ非接触型視線計測器を用いた実験系での測定を行う。ここで試行実験を繰り返し、効果的な訓練プログラムを作成する。訓練前後に、視線の安定性の評価を行うことにより、眼球運動訓練による内的視線の制御の安定化が可能であるかについて検討する。 テーマC: 上記と同時進行で、先行研究で成し得なかった全盲者の視線の遠隔ガイドにシステムについて、装着型の視線計測器(Nac社製EMR9)を用い再検討を行う。 次年度においては、上記テーマBにおける全盲被験者の見た目の視線の記録を中心に、テーマAについても行う予定とする。また、同時に音声フィードバックシステムの改良を行うための全盲被験者による試用実験も合わせて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
刺激提示用のプログラミングに手間取り、実験が実現できていなかったため、被験者への謝金も発生しなかった。現在、実験は開始できる状態までこぎつけ、倫理審査の結果を待っている段階である。そのため、測定系の準備は、これからとなるため、繰越を希望する。
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