脳卒中の後遺症のひとつである失語症は、社会参加・職業復帰の妨げとなる。しかし言語機能の回復に伴う神経回路再編機構は不明な点が多い。脳内の興奮性グルタミン酸AMPA受容体は、神経細胞の機能的結合を担う神経可塑性の中核分子であり、急性脳損傷後の機能回復に関わる。近年開発されたPETトレーサー[11C]K-2によって、ヒト生体脳のAMPA受容体発現密度の測定が可能になった。そこでAMPA受容体に対する[11C]K-2を用いてリハビリテーション前後でPET画像を撮影し、失語症からの回復過程をシナプス機能分子レベルで捉え、言語機能の回復に関わる脳領域の同定を試みた。介入として、約60日間の言語聴覚療法前後に2回の[11C]K-2 PET撮像を行った。健側と障害側の中心前回、縁上回、角回、上・中側頭回、側頭葉後下部、下前頭回における[11C]K-2 SUVR(Standard uptake value ratio; 参照領域 = 全脳)の変化量を測定した。同意を得た4名の失語症者の症状は流暢性失語、伝導失語、超皮質性感覚失語、純粋発語失行であった。4症例の失語症回復過程でAMPA受容体が増加した共通の脳領域は、左頭頂葉、左上側頭回、左運動野~補足運動野、前部帯状回であった。片麻痺からの回復過程は前部帯状回における細胞表面のAMPA受容体量が多いほど回復が良好であった(in revision)が、失語症からの回復過程でも前部帯状回がAMPA受容体が増加する領域の一つであった。このため前部帯状回が回復に必要なその他の脳領域の可塑性を調整している可能性が示唆された。以上の結果を第7回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会で「脳卒中後失語症回復過程においてAMPA受容体発現量が増加する脳領域の探索的同定」として報告した。
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