研究課題/領域番号 |
19K11366
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平賀 真理子 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (50638757)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 運動機能 / 脳血管疾患 / 運動リハビリテーション |
研究実績の概要 |
脳血管疾患は神経の細胞死や機能低下による中枢神経回路網の途絶を引き起こす。その途絶により、局所的な神経損傷に加えて、神経腺維の連絡を介した二次的変性(遠隔性機能障害 diaschisis)が起こる。局所的な一次的損傷を受けた中枢神経系が完全に修復されることは困難だと考えられている。一方で、二次的変性からの回復や代償的機能を担う神経可塑性を促すことは、運動機能回復に寄与する事が示唆されている。本研究は、脳損傷後の二次的遠隔性機能障害からの回復メカニズムについて検討する。
今年度は背外側線条体に脳内出血を誘発するマウスモデルを用いて、出血部位から神経腺維の連絡を介している遠隔部の皮質運動野面積の萎縮が観察された。この結果は、亜急性期の損傷部以外の部位での、遠隔性機能・代謝の低下を示す。また、リハビリテーション(リハビリ)介入によりその二次的機能低下からの回復が認められた。
この損傷や経験・訓練により変動する運動野に着目し、網羅的遺伝子発現に関してRNA-seqを用いて、非出血群、自発的回復群とリハビリ回復群の3群で調べた。RNA-seq pathway解析の結果、リハビリによって特異的に発現が変動する遺伝子群の多くは血管新生や血管細胞の接着や移動に働く因子をコードしていることが分かった。従い、血管新生は、脳損傷後の遠隔性機能障害からの脱却メカニズムの一つであると考えられる。これまでに、脳損傷後に1-3日後の急性期に脈管形成や血管新生が起こる事が報告されているが、亜急性期の特にリハビリによる血管新生への影響は分かっていない。また、報告されている臨床研究の病態は主に循環代謝の低下であることが示され、今回の自発的回復群のRNA-seqの結果と臨床結果は合致する。以上、運動野マップ解析と遺伝子解析により得た結果は、遠隔性機能障害回復に寄与する候補因子抽出の手がかりとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は背外側線条体に脳内出血を誘発するマウスモデルを作成し、出血部位から神経腺維の連絡を介している遠隔部の皮質運動野面積を調べた。その結果、両側において面積が萎縮する事を示した。これは、遠隔性機能・代謝の低下が亜急性期で起こる事を示唆する。またリハビリ介入によるその二次的変性からの回復が、特にトレーニングした前肢側の(出血側)運動野で認められた。ただし、出血反対側の運動野でも、リハビリ介入の影響は確認できた。さらに前肢以外にも顔面・ヒゲ・顎領域や後肢領域でも自発的回復群とリハビリ群とではそれらの面積に差が見受けられた。この結果は、1. 前肢把握運動リハビリは前肢領域だけでなく、領域間のインターニューロンを介して運動野全体(あるいは、皮質の広いエリア)に対して拡散的効果(diffuse effect)がある可能性と、2. RNA-seq解析で示された様に、血管新生・血管内皮細胞移動を介した代謝の上昇が神経に影響する可能性が考えられる。
RNA-seqを用いた実験では、リハビリにより特異的に発現が変動する遺伝子群には血管新生や血管細胞の接着や移動に働く因子をコードしていることが示された。血管新生や血管内皮細胞移動は(間接的、あるいは直接的に)神経に作用し、脳損傷後の遠隔性機能障害からの脱却を促進すると考えられる。例えば、Urotensin2 や Vimentinなどが候補因子として検出されたが、これら因子の脳損傷後の中枢神経での働きはわかっていない。
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今後の研究の推進方策 |
RNA-seq pathway 解析では、血管発達制御、細胞移動、血管新生制御、血管新生、内皮細胞移動などのpathwayがリハビリ介入依存的に変動した。この結果を受けて、血管内皮細胞と周皮細胞数がリハビリ介入により上昇するかをFlow cytometeryにより明らかにする。さらに、血管内皮細胞と周皮細胞に関して、運動野での免疫染色を行い、その密度・分布を観察する。解析より抽出したUrotensin2 や Vimentinを含む候補5因子をRT-qPCRで定量する。これら因子の、腫瘍細胞での血管新生への関与が報告されているが、脳内での、特に脳損傷後の役割は分かっていない。このため、in situ hybridizationとの共免疫染色(血管内皮細胞マーカーCD31、周皮細胞マーカーNG2、と神経細胞NeuN)を用いて発現分布とまた発現細胞腫を明らかにする。神経細胞での集積が確認された場合は、抑制性ニューロンか、興奮性ニューロンかも免疫染色抗体を用いて調べる。
研究の方向性として、治療薬として誘発する血管の量的制御の難しさの観点から、(血管由来または血管作用に加えて)神経に作用する因子を抽出する。分子の神経への直接的関与があるかを明らかにするために、マウスのex vivo脳切片に因子siRNAを添加し、patch-clamp法により皮質上層ニューロンの神経伝達効率の変化を調べる。
上記の実験結果より、因子を一つに絞り、マウス行動実験を行う。そのためにマウスに脳内出血処理を行った後、その分子のアゴニストを脳内投与する。自発的回復過程とリハビリを伴う回復過程においての影響を検討する。遠隔性機能障害からの回復を評価する方法として、皮質領域マップ作成に加えて、 解剖学神経トレーサーを用いたマウスの皮質―線条体投射神経回路(再)形成検証、血管形成密度を免疫染色で検討する。
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