脳血管障害による重度の後遺症からの生活の再建・社会復帰を目指すために、運動療法 (リハビリテーション) が行われているが、現状では、患者の自立や社会復帰は、後遺症の度合いに依存し、特に重度の運動疾患からの回復については十分なレベルに達していない。 我々はラット脳梗塞モデルでの回復期においてリハビリを施す事により、大脳皮質で上肢の動きを制御する領域が再構築され、領域の機能低下が回復した事を示した。しかし、代償的に働く神経領域の再構築のメカニズムや促進方法は解明されておらず、神経可塑性の代償性が不完全である。 本研究課題では、脳損傷後の高次運動機能回復の促進に働く神経可塑性分子の同定を行った。具体的には非出血群、出血+自発的回復群、出血+リハビリ群でRNA sequence 解析を行った。その結果、リハビリテーション特異的な効果として、とくに血管修復作用物質の上昇、神経細胞骨格を形成する物質の上昇、アセチルコリンイオンチャネル受容体に働きかける物質などの上昇を検出した。これらの物質は非損傷下において神経活動を促進する働きがあり、損傷下におても可塑性に寄与する可能性が高いため、vivo 機能評価を運動機能回復、神経修復たんぱく質発現、皮質機能回復などを通して因子の働きを評価した。 ただし、血管内皮細胞より分泌される細胞骨格強化物質などはリハビリにより発現が上昇するものも、減少するものもある。これらの物質により、神経代償的回路形成が妨げられているのか、あるいは、これらの物質により機能向上の妨げになる回路修正が行われているか詳細なメカニズムを検証する必要がある。複数の因子作用による機能効果も考えられる。また、それぞれの物質で、作用部位 (血管内皮、神経細胞膜または、核内で働くかなど) を考慮し、数因子候補に絞り、さらなる脳出血後の運動機能回復・脳機能の観察を通して生体機能評価を行う。
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