近年、腸脳相関が宿主であるヒトの健康状態を左右し、腸内細菌(GM)が多くの疾患に関与していることは周知の事実となっている。我々は以前に便の状態が痛みと関連していることを報告した。便の硬さや便秘は、GM組成と関連することが知られていることから、GM組成が痛みに影響している可能性があると推察する。本研究は、健常者および慢性疼痛患者を対象にGM組成と痛みの関係を調べることを主な目的とした。さらに、副次的な課題として、腸内細菌と関連がある摂取栄養素の影響および痛みの感受性・腸内細菌組成の両方に影響することが知られている運動との関係についても調べた。 健常者84名(男女各42名)を対象に、GM組成と痛覚感受性を測定した。その結果、男性では圧痛閾値はBacteroidetes門と負の相関、Firmicutes門と正の相関を示した。さらにAδ線維の感受性とFirmicutes門は有意な相関を示した。一方、女性ではα多様性と痛みの感受性に関係を示し、GMの主要菌門の保菌率との関係は認められなかった。 次に、慢性疼痛患者136名、健常者68名を対象にGM組成の比較を行い、慢性疼痛患者を疼痛部位により4群(全身痛、腰痛・下肢痛、頭痛、上背部・上肢痛)に分類しGM組成の特徴を調べた。その結果、慢性疼痛患者は健常対照群と比較してα多様性が低く、β多様性が異なっていた。各疼痛部位群ではα多様性に差はなかったが、腰痛・下肢痛患者では健常対照群と異なるβ多様性を示した。また、Fusobacteriumは腰痛と下肢痛の患者で特に多かった。 摂取栄養素、運動との関係についてはそれぞれ健常者30名を対象に調査したが、明確な関係性は明らかにならなかった。 これらの結果からヒトの痛覚感受性に腸内細菌は影響を与えており、腸内細菌叢の変化と慢性疼痛には何らかの関係性があることが示唆される。
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