研究課題/領域番号 |
19K11378
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
小田桐 匡 京都橘大学, 健康科学部, 准教授 (30388904)
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研究分担者 |
葛谷 聡 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30422950)
上田 敬太 京都光華女子大学, 健康科学部, 教授 (60573079)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軽度認知障害 / 手段的日常生活動作 / アルツハイマー病 / 認知機能低下 / アイトラッキング / 遂行機能 |
研究実績の概要 |
2021年度はコロナ窩の真っ只中であり,事実上研究対象者への研究実施は不可能であった。またその間,研究用のMRI装置の仕様が変更され,同一装置での脳撮像も困難となった。現在これまで得られた研究データの分析を中心に進めている。 軽度認知障害者,早期アルツハイマー病患者の手段的日常生活動作上に起こりうるわずかな変化について,遂行機能の影響という視点から,客観的な行動指標である眼球運動指標を用いて分析を継続している。これまでは運動計画の指標として超短時間注視を,視空間性作業記憶の観点から先行注視を抽出し分析を実施してきた。2021年度は情報の抑制と選択という遂行機能のより基本となる機能の影響について分析することを目的に研究を継続してきた。 手段的日常生活課題遂行時において,使う必要の無い誤選択肢への注視行動を無関連注視,課題遂行上必要不可欠な道具への注視行動を関連注視として定義し,各対象者の注視行動の割合を計算し比較している。まだ全ての分析は完了していないが,遂行機能障害が顕在化している症例ほど無関連注視の割合が増加しており,これは軽度認知障害者においても認められた。さらに,健常高齢者においても,無関連注視の割合が高くなるにつれて,行為のエラーにまでは至らないものの,動作上の戸惑いや無関連物品や当座に使う必要の無い関連物品への到達運動を示す傾向を認めた。しかしながら,現段階ではこのような行動指標は遂行機能の神経心理学的検査成績とは相関せず,記憶成績との相関を認め,超短時間注視の傾向と類似していることが示唆された。 眼球運動分析は,特にその計測結果を効率的に行うためのシステム改良を必要とするものの,臨床において認知機能低下を背景としたわずかな生活機能変化を客観的に明らかにすることができる有用な手法であることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ窩で研究施設である京都大学医学部附属病院での計測が全く実施できなかった。依然として施設内での計測は困難な状況が続いており,これまでのデータ分析に傾注している。今年度のデータ分析では各対象者の注視行動を定性的に分析することが必要であるため,予想よりも分析に時間を要している。そこで定性分析の外注化も実施しており,今年度での分析終了に向けて体制を強化している。 同施設が所有する脳撮像機器が故障したため,同一機器での脳計測の条件がなくなった。現在までの対象者数では群間比較するには少なすぎる。脳撮像と分析を専門とする共同研究者らと現在対策を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ窩の影響から1年間研究期間を延長したが,なおも研究施設内での計測が困難であること,他方で得られたデータ分析に予想以上の時間を要することが判明したので,今年1年間はデータ計測を行わずデータ分析を終了させることに全力を尽くしたい。対象者数は心許ないものの,認知機能変化の検出感度が高い眼球運動データの利点はその弱点を補いうる。 外注化も含め,眼球運動データの定性分析を終わらせることが今年度の最大の焦点である。具体的には,各対象者の全ての手段的日常生活課題遂行時における注視行動の特徴を明らかにすることである。そして各注視行動が課題遂行に関連する対象物品にどの程度注意を向けているのか,逆に無関連な物品にどの程度注意のリソースを奪われているのか明らかにしたい。 加えて,本研究で扱った眼球運動指標は関連注視や無関連注視はじめ全てが定性観察を通してはじめて得られるものであり,臨床実践での有用な指標とはなりにくい。そこでこれらの行動指標と相関するより容易に抽出可能な他の眼球運動指標を見いだすことも最終年度に行う課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ窩で研究施設である京都大学医学部附属病院での計測が困難であったため謝金は発生しなかった。そのため研究結果を分析し,その成果をまとめることに計画を変更した。学会についても研究成果をまとめることを優先し,2021年度は参加を見送った。翌年度は成果をまとめ報告するための英文校正費用や学会参加,データ分析の一部外注化にともなう謝金を予定している。
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